龍安寺石庭 (Oct.12, 2003)

 靴を脱いでお堂に上がると板敷きの間に大書の漢詩があった。字を拾っていくうちに陶淵明であることに気がつく。
 右に曲がると濡れ縁から石庭が臨まれた。
 あまりにも有名だし、写真では何度も見たことはあるけれど、実際に来たのは初めてである。
 案外狭く感じられた。
 きれいに掃かれた白い砂に点在する石。長方形の庭を囲む油土塀。その外には境内の木々。
 砂は海で石は島々のようにも見えた。ひとつひとつの石にはそれぞれ異なる印象を持つ。
 油土塀はまるでお茶碗の景色を鑑賞する気分に似ていた。
 これもじつによかった。

 じっと眺めていると狭さを感じない。広大な海、広大な宇宙さえも感じてしまう。
 そのような広々としたものの一方で普段はあまり使わない大脳皮質の襞にそっとしまわれている感性の何かをも刺激するようだった。まるで心の中を覗き込むようなとでも言えようか。自らとはいったい何者であるのか? そう問いかけているようでもあった。



結廬在人境 廬を結んで人境に在り
而無車馬喧 而も車馬の喧しき無し
問君何能爾 君に問う 何ぞ能く爾ると
心遠地自偏 心遠ければ地自から偏なり
採菊東籬下 菊を採る 東籬の下
悠然見南山 悠然として南山を見る
山氣日夕佳 山気 日夕に佳く
飛鳥相與還 飛鳥 相与に還る
此中有眞意 此の中に真意有り
欲辨已忘言 弁ぜんと欲して已に言を忘る