光から聖へ−南アルプス南部縦走 (Sept.13/15, 2003)

 9月13日 易老渡から易老岳を経て光岳へ(9時間15分)
 9月14日 光岳から易老岳、茶臼岳、上河内岳を経て聖平小屋へ(10時間35分)
 9月15日 聖平小屋から聖岳をピストンの後、便ヶ島へ下山(9時間10分)

 それぞれ質はやや異なるものの三日間ともにかなりきつかった。この三日間を通して同行したのがどんかっちょさん、森の音さん、郭公の三人であるが、改めてどんさんの健脚ぶりを再確認させられた。脱帽しました。森の音さんについては、かくも天然の大ボケであったかとこれまた再確認させられた。氏はじつはちょっとした発明家なのであり、世に流通する製品があることは仲間内では周知である。そのわりには作為のないおとぼけの持ち主でもある。このきつい山行中、そのおとぼけで何度も気分が和んだ。

 13日は法事のために翌日の14日、逆方向から同じコースを一泊でやったのがDOPPOさん。
 台風の影響で参加を一日ずらし、14日、DOPPOさんと同じく便ヶ島から聖平へ上がり、そこで僕たちと合流し15日、聖岳へ同行したのがRINちゃん。

 13日こそ天気はいまいちだったけれど、14日、15日は申し分のない好天だった。
 僕たちはへとへとになりながらも南アルプスの飾らない雄大さを堪能した。

聖岳 (撮影 DOPPO氏)

9月13日(土)
 大型の台風14号が接近していたけれど、あえて希望的観測を述べれば日本海でもずいぶん上を通って北上していたし、13日の早朝が最接近のようであるから、初日の悪天は覚悟しつつも時が経つにつれて回復するのではないか?
 
02:45 易老渡着。
 雲はあったがお月さんも出ていた。それまでも雨も降らなかったし風さえそよとも吹かなかった。すでに車が10台ほど。
 テントを張り仮眠。三人で寝るにはいささか狭かったかもしれない。
 なかなか寝付けなかったが朝になると森の音さんがいない。
 途中で雨になったので、シュラフを濡らしてはまずいと車に戻って仮眠したのだとか。
 車の数も20台ほどに増えていた。
 5時を回るとほとんどが動き始める。僕たちもいったん目が覚めて小雨模様の易老渡をぶらぶらしたけれど、むしろしっかり睡眠を取っておいたほうがよかろうと再びテントに入り目を閉じると熟睡してしまった。
 7時半に目が覚めると、どんさんと森の音さんはもう朝ごはんを済ませたのだそうだ。
 「あらあら」
 そそくさとおにぎりをほお張り、テントを撤収。雨具を着ける。
 隣に停めてあった姫路ナンバーのお兄さんはまだゆっくり加減である。

08:10
 どんさん、森の音さん、郭公の順に橋を渡り、さあ、行きましょう。
 雨も小雨が降ったりやんだり、風はほとんどないか微風程度。案外と台風の影響はなさそうだ。
 蒸すからといったんは雨具を脱ぐと、9時を回った頃だったか篠突くほどの雨に見舞われ、あっという間にずぶ濡れになってしまった。
 シャツを絞り、あわてて雨具を着なおす。
 その雨も面平を過ぎる頃はやんでいたのではなかったか。
 時には青空も覗き日差しさえあった。
 道はと言えばまあ迷うことはなさそうだったけれど、GPS森の音少年が待てど暮らせどなかなか来ないからどうしたのかと気を揉んだが、途中で右に折れるところを真っ直ぐ行ったらしく気がつくと沢の方へ行ってしまったのだと言う。
 森の音さんを待つ間に、姫路のお兄さんが追い抜いて行く。
 
14:05
 かなりな急登だった。p2254.1を過ぎようやっと易老岳に着いた。
 途中から一緒になった浜松から来たと言う青年と一緒に休む。
 写真を撮ろうとしてレバーをオンにするとどうゆうわけかフィルムが巻き戻されてしまった。
 「おいおい」
 新しいフィルムを入れるとこれまた一枚も撮らないうちにまたもや巻き戻されてしまった。
 「あちゃー。故障してるやん。ベルビアを持ってきたのに・・・」
 途中の雨のせいで電気系統が故障したものと思われる。
 「やれやれ・・・。やっぱデジカメの方がいいんかなぁ」
 どんさんも森の音さんもがちがちの一眼レフ派だったのに、いつの間にかデジカメに変わっていて、
 「そら、郭公さん、いまはもうデジカメやで」
 「うーん、ジャパネットタカタで金利手数料ジャパネット負担の10回払いで買うかなぁ・・・」
 
 易老岳から三吉ガレ、三吉平あたりはまるで大峰の奥駈を歩いているのかと錯覚を起こしてしまうほど良く似ていた。穏やかな巻き道だった。立ち枯れのシラビソのところなどまさに、八剣から釈迦側へ少し下ったあたりにそっくりだった。

 三吉平から涸沢のゴロゴロした石の道を歩くけれども、これがまたじつに長く急登だった。最年長氏のどんさんと浜松青年はペースも落ちずに先を行く。僕と森の音さんはたまらず一本取る。
 「きつう」
 徐々にガスが巻いて来る。
 上で待っていた浜松青年、この道は前にも歩いたことがあるらしく、
 「もうあとは緩やかです」
 「ふう、それは何より」
 静高平にやっとたどり着く。水場は残念ながら涸れていた。
 地図にもあるごとく亀甲状土の草地に木道が通っている。
 もう小屋は近いらしいが残念ながらガスの中である。

17:25
 ようやっとテン場に着いた。かなりきつかった。
 姫路のお兄さんもテントだったが一時間ほど前に着いたとのこと。すでにコンロに鍋が乗っている。
 森の音さんがツェルトを持って来ていて、とりあえず必要なものだけをテントに放り込み、そのほかはツェルトに入れた途端にまたもや大雨になった。どんさん、森の音さんはあっという間にずぶ濡れである。
 「こりゃあ、小屋に泊まった方がよさそうだ」と、二人はまたもやザックに詰めなおす。
 「せっかく張ったのだから僕はここで」
 雨具を着けて小屋まで行き受付を済ませ、「あのう、水を」と2Lのポリタンを差し出す。
 「本来ならば汲みに行ってもらうところだけど、暗くなっていることだし」とありがたいことに分けていただいた。
 明朝の集合時間を打ち合わせて僕はテントに戻る。

 焼酎を飲み晩御飯を温めるがいまひとつ食欲が沸かず、結局三分の一ほど残してしまった。
 外は強風である。テントが思いっきりたわむ。さいわいペグはきちっと刺さったからテントが浮くことはなかったけれど。
 「こりゃあ、やっぱり台風のせいだろうか? この調子だと明日は今日来た道をそのまま下りないといかんかも知れんなぁ・・・。RINちゃんの判断が正しかったのかも知れん」
 そう思いつついつの間にか爆睡してしまった。


9月14日(日)
 「郭公さん、起きてる?」
 どんさんのやさしい声で目が覚めた。5時を回った頃だったか。
 テントから顔を出すと雲が急いでいて、あとには青空が残った。晴れてくれそうだ。
 お湯を沸かし、パンをほお張る。

06:20 光岳山頂。
 上河内、聖側がきれいに見渡せる。上河内岳のきりっとした山容、そして大きな聖。  じつは一見すると左の平坦部が百間平と思い込み、赤石と勘違いしてしまったのだった。どんさんが地図を広げ、「いやあ聖でしょう」と。
 きょうはあの下まで歩くのか。

06:40
 テント場を出る。きょうは長丁場だからゆっくりもしてられないと、イザルヶ岳をパス。
 それにしても晴天だ。
 きのう往生した涸沢もトントンと小気味よく下り、まさに大峰を思わせる三吉ガレを気持ちよく歩く。

08:35 易老岳。
 なかなかいいペースだ。
 この易老岳から茶臼岳間もじつに気持ちのいい道だった。
 茶臼岳手前の草地でさらに一本。
 テントを干しつつ寝転がって目をつぶる。20分ほど寝ていたろうか。

11:55 茶臼岳山頂。
 昼ごはんを食べていると、姫路から来たお兄さんにまたもや抜かれてしまった。
 「抜きつ抜かれつですね」
 「ちゃうちゃう抜かれつ抜かれつやがな」

 茶臼小屋への分岐を過ぎ藪状の道を抜けると、「ここで休んで行きいな〜」と聞き覚えのある声だ。
 「やあやあやあ」
 地図に亀甲状土とある草原である。その端でDOPPOさんがいなりずしを食べながら待っていた。13時を回ったころだったか。
 「やっぱり早いですね〜」
 RINちゃんもテントを担いで聖平に来ているとのこと。
 「なんやぁ〜」
 足を投げ出してしばし歓談。
 「そうかぁ。RINちゃんも来てるのか。ってことは、明日は聖へ登るってことやな」
 (僕は内心、聖は七月に登っているし、縦走すれば必ず通るのだから、帰る時間のことを考えると明日はそのまま下りてもよいのではないかと思っていた) 

上河内岳 (撮影 DOPPO氏)

 DOPPOさんと別れて重装備三人組は草原を抜け、上河内岳に取り付く。
 目の前に見えているがけっこうきつい。
 分岐にザックを置き空身でピークへ。
 だいぶガスっぽくなって来た。
 目を凝らすと、「おおおっ、富士山の裾野とちゃいますか?」
 山頂部は雲に隠れていたけれど、大きく優美な裾野が見えた。これだけでも僕たちは感動する。目の前には以前森の音さんが行かれた笊ヶ岳。

 さて、あと二時間ほどだろうか。
 南岳で一本。あとは聖平まで下るのみとは言え、昨日の登りと今日の長丁場である。さすがに疲れてきた。聖平までがやけに長く感じられる。まだかまだかと思いながら下ると、ひょいっと小屋への木道が見えた。
 「ふう、長かったぞ〜」

17:15 聖平小屋。
 RINちゃんが来ているはずだ。旧小屋の向こうにある広いテント場で、「RINちゃーん」と呼ぶとRINちゃんはテントから片腕だけ出して合図をした。

 どんさんと森の音さんは今日も旧小屋に泊まると言う。僕はRINちゃんの隣に設営。
 晩御飯は小屋で一緒に食べた。RINちゃん持参のきゅうりがなんともうまかった。
 御飯もきょうはみんな食べた。
 僕たちはどんな話をしたのだったか? 僕は中年の無気力症候群のことを話した。目の前にやらないといけないこと、処理しないといけないことは山ほどある。なのに手をつけないままほったらかしにしている。こうするああするはわかっているのにやる気が出ない。そんなことを話したように思う。
 明朝三時起床、四時出発を約してテントに戻る。
 隣のテントにはRINちゃんがいる。夜這いをしたものかどうか、さんざん迷ううちにとうとう何のお役にも立てずに寝てしまった。


9月15日(月)
03:05 起床。
 「RINちゃん、起きてるか?」
 お湯を沸かして今朝はラーメン。
 外へ出ると月夜に満天の星である。

04:00 撤収完了。
 どんさん、森の音さんも小屋から出てくる。
04:10
 ヘッドランプを点けて「ほな行きましょか?」
 「昨日はRINちゃんにこっちおいで〜って言おうか、そっち行ってもええか〜って言おうかとさんざん悩んだで」
 「いびき、うるさかったわぁ」
04:35 薊畑分岐。
 星がきれいだ。
 ペテルギウス、シリウス、もうひとつは忘れたけれど冬の大三角形なのだそうである。 RINちゃんは花にも詳しいが星にも詳しい。
 ザックをデポし、ほぼ空身あるいは軽いザックで聖へ。
 5時を回るともうヘッドランプも不要だ。

 早朝の清清しさ。空気が澄んでなんとも気持ちがいい。周りの山々がとてもすっきりと見える。
 小聖岳の直前、正面に富士山が見えた。
 「おおおっ」
 今日は山頂がきれいに見える。山頂の左右がややとんがっている。RINちゃんが「猫の耳」と言っていた。
 絵心のあるRINちゃんは葉書にデッサンをはじめた。
 帰宅してから着色するのだと言う。
 なるほどカメラがなくてもこの手もあるのか。

富士山 (撮影 どんかっちょさん)

05:32
 その富士山の左から太陽が昇った。
 ふたたび「おおおっ」

小聖岳にかかる雲 (撮影 森の音さん)

06:50 聖岳山頂。
 みたび「おおおっ」
 何もかもが見えるではないか。
 赤石はもちろんのこと、その奥の悪沢、遠くには槍穂、左に目を転じるとあの独立峰は御岳のようである。とするとその手前に横たわる山並みは中央アルプスか。
 光岳の小屋も見える。
 きのう歩いた道をなぞる。

 素晴らしい。
 北アルプスの気の利いた山容ではないにせよ、衒いのない大きなどっしりとした塊が眼前にある。
 僕は赤石から百間平、百間洞山の家、中盛丸山、兎となぞりながら、七月DOPPOさんとガスの中を歩いたときのことを思い出していた。

聖から赤石。左の百間平の奥が仙丈か。(作者 RINちゃん)

 「奥聖へ行ってみましょう」
 どんさんはひょいひょいと稜線を伝う。ほんとに身が軽いのだ。
 奥聖からは、悪沢がさらによく見える。
 
07:40
 いよいよ下る。
 途中の水場、遠目ではずいぶん細いように見えたがRINちゃんはさほどの時間もかからず500mlのペットボトルを満タンにして帰ってきた。
 姫路のお兄さんの登りに会ったのはこの頃だったか。
 「おはようさん。いくらなんでももう追い抜かれることはないやろね」

09:05 薊畑分岐。
 一本取る間にテントを干す。

 じゃあ、下りましょうか。
 三日目のことであり、しかも聖をピストンしたあとのことである。
 ついに足の裏が痛くなった。なかなかスピードが出ない。
 何度か休みながら、もうすぐもうすぐと言い聞かせつつやっと造林小屋を通りほどなく西沢渡。
 RINちゃんとDOPPOさんは登りでは野猿に乗ったと言う。怖がりな僕は上流を飛び石伝いに渡った人がいたので、「なんだ渡れるのか」とそのルートで先に対岸へ。
 七月は仕方なく浅瀬をざぶざぶと靴を濡らして渡ったのだった。
 森の音さんも、どんさんも、RINちゃんもうれしそうに野猿に乗って渡ってくる。

 便ヶ島まではあとは平坦な道。相変わらず足の裏は痛いからさほどスピードも出ない。
 まだまだ夏の余韻の残る日差しの中をとぼとぼと歩いた。
 でも、とうとう歩き通してしまった満足感でいっぱいだった。

 左下に小屋が見え、駐車場にはRINちゃんの車とDOPPOさんの車がまだあった。
 「おおおっ。僕たちの方が早かったやん」

13:20
 ザックを下し、四人で握手。お疲れさまでした。
 靴を脱ぎサンダルに履き替える。

 DOPPOさんの車にメモを残し、易老渡まで下ると、
 「おおおっ、DOPPOさんやんか」
 じつにグッドタイミングだった。
 二泊三日で歩いたコースをDOPPOさんは一泊二日なのだ。
 さすがに「ふう」って表情ではあったけれど、なんちゅうおっさんや。
 RINちゃんが再び便ヶ島までDOPPOさんを乗せて引き返す。

 全員揃って、「かぐらの湯」へ。
 帰途の車中、阪神の優勝が決まった。
 いま、DOPPOさんのHPのトップには、「日本一フィバーまで あと
」とある。



どんかっちょさん:南アルプス南部光から聖岳縦走

森の音さん:南アルプス南部(光岳〜聖岳)縦走

DOPPOさん:No,384 上河内岳から光岳(南アルプス)

RINちゃん:スケッチ集「台風一過の聖岳」


追記:
カメラ故障のため自前の画像が一枚もなく、DOPPOさん、どんかっちょさん、森の音さん、そしてRINちゃんからそれぞれ許可を得て使わせていただきました。改めて御礼を申し上げます。
きつかったですけど、ほんとうにいい山行ができました。ありがとうございました。

 山のあなたの空とおく さいわい住むとひとのいう・・・。