バリゴヤの頭 (Sept.27, 2003)

 今年は意識的に大峰に入り浸った。いろんなルートを歩きながらいずれはバリゴヤの頭へと決めていた。すこし口幅ったい言い方をすれば、このバリゴヤの頭は僕自身にとっては大峰縦走の集大成みたいな意味合いもあった。

 まだまだ未踏のルートはあるけれど、「機は熟した。行ってみるか」
 無理なら引き返せばいい。どこまで行けるか。どこが無理だったのか。それを確かめるだけでもいい。


 あまりの寒さに目が覚めたのが3時。座椅子を枕に眠りこけていた。
 「そやそや」
 電池を充電していたのだった。取説を見ながら電池、SDカードを装着。何枚か試し撮りをしてパソコンに取り込んでみる。設定がいろいろあるらしいが、小さな字は読みづらい。まあ撮れてるんだからとりあえずはOK。

 S氏によると、クロモジ尾のもうひとつ北にある尾根にも道がついていて(ここではS新道と呼んでおく)、稲村へはこの道が早そうだと言う。これならうまくいけば日帰りでバリゴヤの頭まで行けるかもしれない。                 

白倉谷林道より、大日、稲村を望む。車の中から撮った。

06:40
 白倉谷林道終点着。
 パンを食い、朝露避けに雨具を着ける。

07:00
 藪の中を沢に向かって入るとすぐいささか心もとない橋がかかっていた。
 橋のそばを飛び石伝いに対岸へ。
 滑りやすい石に用心しながら道に沿い分岐を右に(尾根側)取る。
 かなりな急登だった。
 まだ植林帯の中であり白いテープが巻かれた杉が何本もあった。あるかなきかの道もおそらくそれに従い付いていたように思う。稜線はすぐ上にある。ガリガリと直登してもよさそうだったが、目を凝らしながらジグザクに登ると、一時間あまりでクロモジ尾との合流点と思われるところに着いた。赤や黄色やのテープがぐるぐる巻きにされているところだ。
 2月、D氏、S氏とクロモジ尾を登ったとき、ワカンを履いたのがここではなかったか?
 さらに急登を詰め稲村小屋からの道に合流し、大日の根っこをへつる。雪がなければどうってことのないトラバースだ。
 
09:25 
 山頂の下を巻いて稜線に出て稜線沿いに少し引き返すと稲村ヶ岳山頂。
 僕はこの稜線を稲村と反対側に歩くとバリゴヤの頭へ行けるものと思っていた。
 山頂の展望台からそのバリゴヤ方面を眺めると、その向こうに弥山が見え、小屋らしき輪郭も見えた。

稲村ヶ岳山頂より大普賢 稲村ヶ岳山頂より弥山、バリゴヤ方面

 では、行ってみるか。
 トラロープを跨ぎ徐々に下り、さらにがくんと急斜面を下る。下ったところで、さらに急斜面になっている。かなり手ごわい。やっぱりあかんか。どっちへ下ったらいいものか周りを見渡すが、どうもこの先にバリゴヤへ続く山並みが見えないのだ。
 おかしいな? かなり右方向に弥山が見える。その手前がバリゴヤの頭。そこへ続く稜線が右に見える。
 「あれ? こことちゃうやん。なんやまちごうとるわ・・・。そやけど、どっから行けばいいんやろ?」
 僕はてっきりこの道からだとばかり思っていたのに。

 いったん稲村まで引き返す。山頂のすぐ下に赤テープがあった。踏まれた道らしきものもあった。「これか?」

09:55
 展望台に戻って改めて確認するとどうやらそれらしい。
 初老のご夫婦が休んでおられてしばし歓談。

10:05
 「ほな、行ってきますわ」と再出発。
 どうやらこれで間違いなさそうだ。テープも付いていた。

 稜線上の石楠花の森ではやたら枝が邪魔をして、ザックは引っ掛けるし足は躓く。
 クラ(岩場)が立ちふさがっている。直登したものか巻いたものか。
 急登で、木の枝につかまるとポキポキ折れるし、大丈夫そうに見えて朽ちているのもあった。
 「ああ、これは五番関から大所山の稜線に似ている。修覆山から迷ヶ岳への稜線にもこんなところがあった」
 その難所がもっと凝縮されたのが、稲村からバリゴヤの頭へのルートだと言ってよい。
 
 バリゴヤの頭まで、主なピークは四つほどあったが、稜線上のことだからそれ以外にも小ピークらしきものがあった。途中で数えるのを忘れてしまうほど、登り下りに気を使った。

11:55
 どうやら目前のピークがバリゴヤの頭と思われる鞍部で一本。
 「ふう、やっとここまで来れた」
 先を眺めると石楠花ももうないし、急登ではあるがゆっくり登ればなんとかなりそうな感じもあったけれど、いざ取り付いてみると頂上直下ではまたもやアクロバットを強いられた。岩場を巻いて、体重をかけていいものかどうか枝を吟味しながら右往左往しつつ黄色のテープにたどり着いた。
 「ふう」
 登りはまだ気が楽だけれど、下りとなるとかなり怖そうだ。

12:20
 やっと「バリゴヤの頭」に着いた。
 稲村ヶ岳から2時間15分かかった。
 日の当たるところで昼食。目の前に行者還が見える。

バリゴヤの頭から行者還岳

12:35
 日暮れまでには下りなければ。
 再び先ほどの道を引き返す。
 山頂からの急斜面を用心しながら下りる。まずは第一関門を通過。
 往路では迷い、遠巻きにしたところも復路では比較的スムーズに道が見えた。
 先達のリボンやテープ、ネットで読むことができたこまくささんたちや、DOPPOさんの記録に助けられて僕もバリゴヤの頭まで行けたのだ。

14:55
 三たび稲村ヶ岳。
 この時間になるともう人もいない。

16:00
 クロモジ尾とS新道との分岐。

17:05 
 白倉谷林道終点。