武士ヶ峰・高城山―思いがけない新雪の中を (Mar.7, 2004)

 きょうは武士ヶ峰・高城山へ行ってきました。天川からもう少し南、天和山の反対(北)側ですね。
 「また山?」って言われそうですけど、山ってたぶんマニアックな世界なんでしょう。行けるときに行っとこうって気もちょっとあるのかも知れません。

 昭文社の「大峰山脈」、これが一番よく使うせいか、折り目は擦り切れてテープを貼ったり、タバコの火で穴を開けたりしています。95年版だからもうそろそろ買い換えてもいいのですが、行ったルートにマーカーで線を引いたりしていると、愛着も湧いてきます。もう少し使ったら買い換えましょう。
 まだまだ、行ったことのない山がたくさんありますが、この武士ヶ峰・高城山もそのひとつ。

 まだ明けきらない5時半に自宅を出ました。
 御所から吉野へ向かう緩やかな坂を上がるあたりから一面の雪化粧。雪の量そのものはたいしたことはありません。気温が低いから溶け切れないのでしょう。
 黒滝あたりから道路にも雪が残っていましたが、チェーンを巻くほどではありません。天川へ着く頃はシフトダウンして雪モードのスイッチを入れました。栃尾、和田方面は車が少ないせいかもっと白かったです。対向車と離合するときはそろっと左の雪の中に入ったことです。

 地図によれば、武士ヶ峰への登山口はいくつかあります。
 まず、籠山の橋の手前で林道に入りました。ここももちろん雪です。登れるだけ登って幅広の路肩に停めました。間違ってはいないはずですが、いまいち気に入りません。
 で、いったん戻り、庵住の橋を渡り、
07:30
 「ふるさとセンター つどい」に駐車して山道に取り付きます。すると林道に出合いました。さっきの林道です。民家がありました。おじさんが外におられたので、「この道でいいですよね?」と挨拶がてらに声をかけると、「うーん、雪だし、尾根に道はないよ。この林道は白井谷林道やけど、西ノ谷林道からの方がいいんとちゃうかな」とおっしゃいます。
 道としては地図どおり、間違ってはいないはずです。でも、地元の人の助言です。仕方がありません、またもや引き返しました。
08:15
 天候もいまいちでしたので、車に戻って、きょうはもうこのまま帰ろうかとも思いました。スパッツを外し、山靴を脱ぎました。
 西ノ谷林道は和田寄りです。引き返してもそれらしい林道が見当たりません。とうとう和田郵便局まで来てしまいました。いちおう西ノ谷林道の入口は確認しておいた方がよい。
 もう一度、Uターンです。するとはすかいに右へ分岐がありました。きっとこれです。
 車を入れると緩やかですがきょうは誰も入ってないようです。ここも「行けるところまで」のつもりで走らせますとさらに雪は深くなり、とうとうスリップしはじめました。

西ノ谷林道 稜線が見えてきた

08:40
 チェーンを巻くのも面倒なので、そろっと広い路肩に停めました。
 「しょうがない。ここまで来たんだから、やっぱり行こう」
 改めて靴を履き、スパッツを着けた。
 戻り寒波。思いがけずさらさらの新雪に恵まれました。
 天候は曇り。延々と雪の林道を歩きます。ボタン雪が舞っています。
 「ボタン雪だったら気温は高いのだから積もることはない」
 帰りにうまく車が出せるかどうか不安もありましたが、そう言い聞かせながら林道を歩きました。

10:00
 一時間ほどで視界が開け、稜線が見えてきました。林道はその稜線を寸断して向こうまで下りています。
 そうか、雪がなければここまで来れるんや。

武士ヶ峰北峰? 白石山? 南峰?

 まず武士ヶ峰へ。地図ではここからそう遠くない。
10:15
 足元だけではなく、木の枝や葉っぱに積もっていた雪を頭から被りながら、また倒木を避けながらやっと山頂。ところが山名板がありません。地図を見ると、武士ヶ峰は北峰と南峰がある。いまいるのは北峰かもしれない。で、稜線に沿って南へ歩きました。頭は解けた雪が凍ってバリバリです。タオルで拭いて毛糸の帽子を被りました。
 ほどなくぐんと下ります。いったん鞍部に下りて登り返すのだろうとかすかに道らしく思えるところを下ると沢の音が聞こえます。地図を見ると沢がある。やや左に寄っているけれど間違ってはいないと思いながらその沢を渡ると林道に出ました。あれ? 雪の上に踏跡が一つ。これはさきほどの僕のです。あれ? 南峰はどうしちゃったんでしょう? 気がつかずに行き過ぎたのだろうか? あるいは稜線に沿っているつもりで支尾根に入り込んでしまったのかも知れません。

 仕方がないから再び林道を登りました。稜線に出て今度は東へ。高城山です。
 さらさらの新雪を気持ちよく登っていたのですが、急登では足が滑ります。踊場のような平坦ところでアイゼンを履きました。さすがに滑らなくなりました。

高城山へ 春の芽吹き

11:45
 ぐっと登ってピークに出ました。ここにも山名板がありません。高城山なのかどうか定かではありません。お腹も空いてきました。先へ下ってみますとさらに向こうに高まりがありました。「あそこかも知れない」

高城山山頂 高城山山頂にて

12:00
 というわけでやっとこさ高城山山頂です。1111m。これに因んでいるのでしょう。「平成11年11月11日11時11分」と書かれた山名板が見える範囲でも三つほどありました。
 座ってお昼ご飯。巻き寿司とお稲荷さんに熱いお茶。さすがに停まっていると冷えてきます。雪もボタン雪から少し小さめのに変わっています。
 ここから天狗倉山まで一時間と少しなのですが、往復で二時間。元来、小心者です。帰りのことも気になります。弱気になって「天狗倉山はまた来よう」と、下りることにしました。

青空 林道

12:50
 林道へ戻るとやっと青空です。やっぱり青空が見えるとホッとしますね。

 この山中、僕は初代のK社長とディック・フランシスのことを思い出していました。
 15年、いやもう少し前のことでした。納会の挨拶で、「ディック・フランシスは武器は何にも持ってへん状態から脱出した。僕らには武器はいっぱいあるやないか。それを使ってがんばろう」、そんなことを言っていました。
 僕はそのときディック・フランシスのことを知りませんでした。「誰?」、隣の同僚、「競馬ミステリーの作家」。その頃は競馬も知りません。
 その後、近くの図書館で「本命」「興奮」「度胸」などを借りました。借りるものが無くなって早川文庫を買い全て読みました。文庫が出るのが待ちきれなくて、毎年一冊出版されるハードカバーを読みました。
 その後、いつだったかNYへ、後にも先にも海外へはそれっきりですけど、社長へのお土産に新作を一冊買いました。社長、読んでくれたろうか?
 そのK社長も数年前他界し、今四代目の社長は、初代の息子さん。
 先月、有楽町の中華屋で帰りの新幹線の時間を気にしながら四代目にその話をしたのを思い出していたのです。
 初代のK社長が東京へ来るたびにそのお店をよく使っていたのを聞いていたからかも知れません。そういえば漢詩にも詳しく、飲むと「古来征戦幾人か回(かえ)る」なんてよく言ってました。

14:00
 車に戻り無事脱出。
 帰路は雪も解けていました。