冬の大峰シリーズ最終章、深雪の釈迦。稀にみる充実した山行でした。

天気予報に反して朝から曇り空だった。

先週の大普賢の下りに翌週は釈迦に行こうかとなどと半分冗談で言っていたが・・・前日まで二転三転・・・なぜか行かなくてはいけないような使命感にとらわれていた。この冬、締めの山行には、うってつけの獲物だったからだ。

この冬最後の寒波であろう週末の凍てつきに、早朝の路面凍結を嫌い前日旭登山口入りを試みるが予想以上に凍結しており途中で断念。よくても予定より往復10キロ強の林道歩きを強いられ、時間にして4時間強のロスになりそうだった。かなりスケジュールがタイトになり三人のモチベーションは低下していた。旭ダム近くの風を避ける事の出来る場所にテントを張り22時まで酒盛り、就寝。。。しかし、誰も林道歩きの事を口にすることは出来なかった。

4時頃、目覚めたものの、ここから歩くか車で上がってみるか・・・そんなことをシュラフの中で考えながら結局予定よりも1時間ほど遅れて起床。テントを出ると思ったほど寒くはなかった。身支度をすませ、凍結した路面を車で上がって見ることとなり、慎重に林道を登っていった。結局、昨夜上がって来たいたダムより林道上部第一分岐まで乗り入れることが出来た。

7時歩き始める。折り返しのタイムリミットは12時に想定した。

歩き始めて間もなく林道を塞ぐ崩落箇所があり、どちらにしても車を置いたところまでしか入れなかったことがわかった。黙々と林道歩き2時間、9時に第一登山口に着。この辺りで積雪20センチはある。一般登山道を登って行くのが定石かと思っていたが、Dさんが不動小屋山経由で登ろうと言い出した。地形図からは小さな沢を渡り尾根沿いに一本なのだった。どうせ駄目ならば古田の森まで直登のコースに進路をとりショートカットに挑戦だ。すぐに了解した。
植林帯を抜け、沢をつめ上がる。沢上部のお決まりのガレた直登をよじ登り尾根に取り付く。さあここからが大変だ。ところどころ境界杭があるものの大変ご立派な藪が立ちはだかっていた。雪上に残る鹿の足跡を頼りに尾根をつめる。こんな所では獣道様々だ。次第に週末の新雪に膝上までズボ足になり、ワカンを装着する。笹、倒朴、シャクナゲ等など・・・深雪のおかげでそれらの上を渡って歩く。夏であればワカンの下駄を履いた鞍馬の天狗みたいだった。
やがて藪をぬけるとブナなどの自然林になった。朝の雲も切れ始め、澄んだ冬の蒼き空をバックに白い釈迦が遠く見え隠れする。古田の森に向かう尾根はみごとなほどの樹氷の林である。おのおの休憩を兼ねスティールを刻んだ。さあ、もうひと登り、稜線を境にする空が見える。やわらかな新雪でワカンでも膝までのラッセル歩行、3倍の労力だ。稜線直下最後の急登をつめ11時古田の森着。

ついに釈迦を射程距離に捉えた。

さらに稜線伝いにラッセル・ラッセル・ラッセル・ラッセル・ラッセル12時千丈平着。もう目と鼻の先である…しかしながらさすがにシャリバテだ。
寒風を避け大樹の陰に身を置き各自昼食を取る、震える体を小さくし、冷えたオニギリをほおばり、ポットに入れた珈琲で胃に流し込む。タイムリミットは来たがここまで来たらいくであろう。荷物をデポし空身でアタック。相も変わらずラッセルだが足取りは軽い。13時釈迦山頂。

「おおぅ」感嘆してしまった。

釈迦像が雪氷の衣を纏っている。こんな姿はなかなか見られるものではない。空は晴れ渡り眼下に広がる大峯の山々もすばらしい。気温も上がったのかシャターを押すのにグローブを脱いだ指先も寒さを覚えない。20分ほどであったが時間が過ぎていくのが悔しかった。素晴らしい景色が名残惜しいが下山せねば…

雪纏う釈迦に別れを告げる。心なしか釈迦が微笑んだように思えた。

デポした荷物を回収し正規のルートを下る。速い…3時間余りで車の所まで下山。
朝は気付かなかったが梅の花が咲いていた。春はそこまで来ていた。
温泉につかりジンと全身充実感に包まれたのだった。