郭公、白馬の騎士にSOSの巻―局ヶ岳から三峰山縦走 
(Apr.16/17, 2005)
今回歩く稜線。ピラミダルな山容が栗ノ木。三峰山は靄に霞んでいる。

 高見山以東はかつて2度行っただけでなじみのない山域だったから「いずれは」と思っていてせっかくなら台高山系をまず繋ぎたい、その第一回目が先週の高見山から三峰山まで。今回は三峰山以東と言うことになる。どのように繋いだものか、いろいろと思案したすえに、結局、局ヶ岳から三峰山までテン泊の装備でピストンすることにした。三峰山に日のあるうちに着けば引き返せるだけ引き返して幕営すれば、翌日の距離も時間も短くなる。なんとかやれるのではないか。久々の長距離、久々の山中幕営である。
 タンタン氏が、日曜三峰山へ登る予定があるからピックアップしましょうと言ってくれた。じつにうれしい提案であるが、彼には彼の都合もあるだろうし、僕自身なんとか一人でやれそうな気もしていたので、出かけるまで、まだ予定には組み込んでいなかったのである。がしかし、僕は彼のことを白馬の騎士氏と呼ぶことになってしまう。以下、その縦走の顛末である。

4月16日(土)
 アラームを2時半、2時40分にセットし、そのひとつはたしかに聞こえたがすぐには起きれなくてユニコーンが「あんた、3時を回ってるで〜」。
 ザックは昨晩作っておいたからおよそ30分で自宅を出る。水はポリタンに2L、お茶は500mlを2本。山中、水場はなさそう。往路で1L、テントで1L、復路で1Lの予定である。
 みつえ青少年旅行村(三峰山の登山口)への入口を過ぎ、若宮八幡(修験業山、栗ノ木岳の登山口)への入口も過ぎ、そろそろ目的地、局ヶ岳への登山口である。地図では、R368は東の高須ノ峰への登り、西はP942から下るの尾根の鞍部を通っているから、この地点から取り付けば台高縦走路をそのまま歩くことになるが、その取り付きがどこになるのかいまひとつはっきりしないまま通り過ぎ、峠の集落まで来てしまった。三差路があり、その角に国道から右へ約3キロ入ると「局ヶ岳登山口」の案内板があった。念のためにもう一度引き返すと林道が2本ありそのどちらかに入ればよさそうな感じだがここで時間を使うわけにもいかないので、またもや引き返し、結局、峠の奥の登山口から登ることにする。

局ヶ岳登山口 局ヶ岳山頂

06:00 局ヶ岳登山口着。パンを食い、靴を履き替える。
06:15 橋を渡って出発。久々の重いザックではあったが、風もあり、道も比較的登りやすくまずは順調。山頂まで18丁、約2kmである。
 縦走路への分岐を過ぎ、山頂まであとわずか。横ざまに朝日が射し、風が渡っている。
 君恋し局の君の坂道に朝明け放ち涼風渡る

07:25 局ヶ岳山頂
 下って分岐を左へ。地図ではわりと緩やかに見えたが実際に歩いて見るとところどころに急斜面のある痩せ尾根だった。
08:00 栗ノ木岳まで4:55の道標。ってことは、13時くらいか。なんとか行けそう。カタクリが咲いていた。

カタクリ P942

08:35 P942
 某大学の標識があった。ここから尾根を下ればR368に出るはずだ。独断ではあるがこの尾根が本来の台高山系の筋ではないかと思う。この尾根を下り、R368を跨ぎ高須ノ峰からさらに北へ下って台高山系は終焉するのではないか。ここまで歩いてきた尾根は局ヶ岳と台高山系をつなぐ渡り廊下のようになっている。太古、複雑な造山運動があったのだろう。
 よし、帰りはこの尾根を下ろう。見落とすことはないだろうが、念のために赤テープを巻いておく。
 ほんの少し登った見晴らしのいいところで一本。さきほど登った局ヶ岳のとんがりがきれいに見える。うぐいすが鳴いている。
 うぐいすや幾山向こうの三峰山

局ヶ岳 ええっと・・・

09:30 P821あたりか。
 チエンソーや下界のエンジン音が聞こえる。まだまだ快調。
10:10 庄司峠

庄司峠

 日が射し、広々としてのんびりとした感じの鞍部である。十字路になっていて左右にもテープがあるが、縦走路はまっすぐ登るはずだ。前回の請取峠の轍を踏まないよう目を凝らすとかすかながら急斜面に踏跡らしきものがありテープもあった。かなり急である。ようよう登りきると人一人分くらいの道幅が笹薮の中にあった。ゆるやかに下り、今度は稜線を右に巻きつつ登ると派生した尾根に出た。このあたりの地形は複雑だ。

10:40 P879(庄司山)
 ふう。この登りはきつかった。三角点に座り一本。歩き始めて4時間半か。
 歩くに連れ、栗ノ木岳のとんがりが圧倒的に迫ってくる。
 縦走路見えるは栗ノ木ばかりなり
 とぼとぼと汗かきべそかき縦走路
 季語もなくもはや川柳、だんだんと小洒落たことを考える余裕がなくなっているのである。

圧倒的に迫る栗ノ木岳

11:55 若宮峠
 ここから若宮八幡へ下りれるようだ。
 栗ノ木岳への登りが待っている。足の裏が痛くなってきたぞ。
 山頂へは数本の踏跡があり、僕は左に巻いた道に従い稜線に乗った。

若宮峠 栗ノ木岳山頂

12:40 栗ノ木岳
 ふう。前半終了か。ここまで来ると昭文社の地図にも載っているからなんだか三峰山もすぐ近くのような気になってしまう。内心、4時過ぎには三峰山へ着きそうな気もしたのである。
 御杖側の展望がよく、地図を広げてそれぞれの山を同定。
 お昼を食べ終える頃、修験業側から人の声が聞こえてきた。
 若宮八幡の登山口から来られたようだ。入れ違いに下ることにする。かなり急な下り、とぼとぼと下ると何組ものパーティにすれ違う。
 高ノ宮を過ぎ、またもや急登。

修験業山 黒岩山

14:05 修験業山
 かなり疲れてしまった。三峰山へは5時か? 予定時刻が徐々に後ろへずれていく。
 ここからの下りもきつく、正面の黒岩山がまたぐんと聳えていて、おいおいまだ下るの?
 げんなりしてしまう。たまらず一本。足の裏が痛くなって下りでもスピードが出ないのである。
 岩場を過ぎてピークに出る。ここが黒岩山か? でも山名板がない。少し先にもピークがある。地図を見ると、黒岩山と次の涸谷山は近い。
 あれが涸谷山だとすれば、ここが黒岩山だが、あれが黒岩山だとすると・・・。
 ニセピーク黒岩山と書き換えたい

15:50 黒岩山 
 やれやれ。
 「あれ」が黒岩山だったのだ。修験業山からこの黒岩山まで1時間45分もかかってしまった。
 結局、この黒岩山への登りが胸突き八丁だった。
 涸谷山までは比較的穏やかな道。
 途中で携帯が鳴った。タンタン氏から明日、ピックアップ予定のメールである。
 携帯の繋がりぐあいは、まず局ヶ岳山頂ではかなり不安定でアンテナは立つものの送信できず、P821地点で一度繋がった。次に繋がったのが修験業山。そしてこの黒岩山の下り。
 ほかはずっと圏外だったのに、電源を入れたままのせいか、電池をかなり消耗してしまい、残量を示すマークがひとつ消えてしまった。

涸谷山 平倉峰

16:25 涸谷山
17:10 平倉峰
 涸谷山から平倉峰へも穏やかで落ち着いた道だった。どうやら黒岩山が境になっているようだ。こんな道がずっと続いてたらよかったのに・・・。
 平倉峰からも北部の山並みが一望できた。やや不安定ではあったが携帯も通じる。

 三峰山まであとどのくらいだろう。一時間くらいか?
 日暮れまでには行けそうだが。どうしよう。それよりも明日、引き返せるだろうか?
 僕はタンタン氏に「お願いします」とSOSを発信した。
 すぐに了解の旨返事があった。
 ほっとひと息である。
 そうと決まれば、きょう三峰山まで行くこともない。きょうは、テントを担いで11時間歩いている。この平倉峰も山頂部は広くテントも張れる。人も来ないだろうからここで幕営しよう。
 設営を終えて、早速お湯を沸かし、まず明日のお茶を作る。それから焼酎だ。
 仲間内には、「平倉峰で幕営します。明日は白馬の騎士が来てくださいます。うれし涙のはるの夕暮れ。もうテント張りました。(^O^)」と送信。
 白馬の騎士氏には、「おおきに。山のあなたの空遠くさいわい住むと人の言ふ」と送信すると、すぐ返歌があった。
 さいわいにあらずいつかの男気に山のむこうの近きあなたへ

 アルファ米とレトルトの牛丼、味噌汁。御飯もしっかり食べてシュラフに包まりいつの間にか眠ってしまった。
 携帯から「G線上のアリア」が鳴った。D氏からの電話だ。19:16である。
 「なんや寝てたんかい」
 「寝てたっちゅうに」
 GWの予定等々の打ち合わせである。おいおい。(^O^)

 夜中、11時過ぎに目が覚めた。風が強い。外へ出ると、半月に満天の星だった。
 御杖村や飯高方面の下界の明かりも見えた。
 

4月17日(日)

平倉峰より

 6時前に起床。山頂の木々の向こうに朝日が昇ったところである。
 朝一の空気の中、御杖方面の山々が素晴らしい。
 パンを食い、お茶を飲み、ごそごそと撤収。
 風のせいかテントはさらさら。帰って干す必要もなさそうだ。
 ポリタンの水は全て使い切って、作ったお茶が700mlほどである。
 きょう、もし一人できのうの道を引き返すとしたら足りていただろうか?
 きのうはかなりしんどかった。がんばって三峰山まで行ったとしても、きょう再びあの道を引き返せただろうか? 自分の体力を省みない、いささか無謀な計画だったかもしれない。
 
 白馬の騎士氏はお昼ごろ三峰山だから急ぐこともないのだが、撤収後、写真を撮りタバコを吸い、07:10、三峰山へ向かった。
 この平倉峰から三峰山への道も穏やかだった。鹿が三頭、斜面を下って行く。バイケイソウの群生があった。

バイケイソウ アシビ

 三峰山(みうねやま)は三畝山とも表記され、読みから判断するともともと後者がオリジナルだと思う。山頂から西の高見山へ、東は局ヶ岳へ、北は岳の洞、大洞山、尼ヶ岳への稜線が走っている。三峰山はこの三つの稜線の結節点になっている。この稜線を畝になぞらえて三畝山と言ったのではないだろうか?
 
07:40 三峰山山頂。
 思ったより早く着いた。
 ここで携帯の電池が切れた。
 八丁平へ下り、ザックを置いて月出登山口方面を散策。きょうも快晴。誰もいない早朝の八丁平。展望もいいし、寒くもない。昨日の縦走路は平倉峰の向こうに隠れて見えないのが残念だ。
 シートを敷き、靴も靴下も脱ぎ、ザックを枕にのんびりとする。

 青空の八丁平鳥の声 ちょっとつまらんな。
 切れ切れの交信なれどありがたく 疲労困憊平倉の峰 うん、なかなかよいぞ。
 もう何もすることもなし三峰山 快晴涼風 君を待つのみ 

 しんどい思いで歩いても、じっとしてても時間は流れる。
 快晴の下、この八丁平でのんびり過ごすのも贅沢な時間の使い方かもしれない。
 そうこうするうちにとうとう眠ってしまったようだ。
 気がつくとお日さんがだいぶ上にある。暑いくらいだ。
 時計を見ると11時を回ったところ。じっとしてても腹は減る。小さい葡萄パンを4個食べた。
 残りの食料は、その葡萄パンが1個と、ひと袋のお菓子。ラーメン。
 水はない。昨日の往路、水場もなかったからラーメンは食えない。テントで食うには水を使いすぎる。ピストンするには食料的にも足りなかったか。

 12時を回って靴を履いて腹ごなしに再び散策しかけると、口笛が聞こえた。
 三峰山の方から、来た来た、白馬の騎士登場である。
 「よおよおよお」
 にっこりマークでお出迎え。プチ遭難状態が解除された瞬間である。(^O^)

白馬の騎士氏と記念写真

 同行者を伴い、白馬の騎士氏は山名にちなんで焼酎「三岳」を持参。
 「酔うからあかんやろう?」
 「下る間に醒めますよー」
 「そうか、ほな、ちょっとでええで」
 そう言いつつお代わりをしてしまった。

 新道峠を下り、送ってもらって僕の車を回収し、姫石の湯で汗を流した。
 白馬の騎士氏、おおきに。まじで助かりました。