紀見峠から金剛山・葛城山 (Mar.3, 2007)

   角獣が起こしてくれたのだが、体はぐったり、声はガラガラしている。
 始発で出かけるつもりだったのに10分、20分、30分とまどろみ、ようよう蒲団から出た。
 「風邪気味みたいやし、やめといたら」
 穏当なアドヴァイスだ。
 パソコンを起こし、その前でトーストを齧る。
 そうこうするうちに、
 「こりゃあ、気分転換が必要だ。とりあえず日常からいったん切れてみよう」
 そんな気分になった。
 「行くわ。熱もないし」
 7時を回って駅まで送ってもらい、コンビニに寄り、07:35に乗り、紀見峠に着いたのが8時くらいだったか。
 きょうはダイヤモンドトレイルを金剛山の方へ向かって行けるところまでのつもりである。時間次第でどこからでも下れる。

  民家の中の坂を上って40分で山ノ神。荷は軽いし、再び歩き回る生活が始まったから体そのものは徐々に切れてきた。それにしても暖かい。結局今季、冬らしさを感じないまま春になった。春と言うより陽射しは初夏と言ってもいい。山の陽射しはいつもピュアで真っ直ぐだ。

 まずは一本。セーターを脱ぎ、パンを齧り、お茶を飲む。
ショウジョウバカマ

 「さて」と立ち上がったところに鈴の音。単独のおばさん。このおばさんが速い速い。
 長い長い丸太の階段を上がって尾根に出るが、休んでおられるところでようやく追いついた。
 「いつでも追い越してくださいよ〜」と声をかけて先へ行く。案の定、すぐ追いつかれた。中葛城山まではこんな調子で抜きつ抜かれつ。そうそう、ショウジョウバカマを教えてもらった。

  は歩きながら小説のストーリーが浮かんだ。
 タイトルは『迷路に棲む』。
 どんな話かと言うと、巨大な迷路があって、入場者数より出場者数が常に少ないのだ。
 迷路の中には、ごく安全なメインストリートもあるのだが、いわゆるバリエーションルートが幾つもあり、その中に入り込んで楽しむのもOK。
 地図とコンパスは入場料を払う際に配布される。尾根筋やら谷筋やら、あるいは巻くのもよし。迷路の中には、途中途中に売店もあれば、レストラン、ホテルもある。シュラフで洞窟で寝るのもよし。テン泊もOKだ。
 だからみんなが日帰りとは限らない。
 入場者数引く出場者数が滞留者になるのだが、施設で働いている人数は確認できるから、それは差し引くとしても年間で言うと何十人かが滞留していることになるのだ。
 遺体で発見されることもしばしば。お地蔵さん、石碑などが建っているのはそのためであると言う。
 棲みついている人もいるらしい。
 なあんてことを思いながら歩いた。面白いのかつまんないのかよくわからない。
 
  葛城山が近づくと大峰山系が一望できる。少ない雪とは言え、1700mを超える山域には遠目ながらもまだまだ白いものがあった。

11:45 中葛城山。
 おばさんはすでに昼食中。ここからまた紀見峠まで戻ると言う。トレーニングには絶好だと。なるほど、そうかもしれない。
 弁当を終え、さてと立ち上がりかけると、
 「どこまで?」
 「うーん、どうしようかなぁ」
 「ふうん、素直に下りないんだ」
 「そんなこともないですけど、ダイトレを行けるところまで」
 ざっと計算すると葛城山までは行けるはずだ。それからどうするか。

 久留野峠へ下り、金剛山へぐっと登り返す。伏見峠まで来ると大勢の登山客およびピクニックの人たち。

12:45  頂の葛木神社へと葛城山への分岐。神社までは数分だがきょうは遠慮しておく。 ダイトレを緩やかに下ると葛城山が見える。
 「うへっ、あそこまで行くんか」
葛城山
 水越峠までいったん下り、そこから歩きにくいと評判の悪い丸太の階段の急登を喘がなければならない。評判が悪いのはたしかにその通りなのだが、この階段がなければ道はもっと傷んでいるのではないかと思う。
 この葛城山の写真を撮る間に快速おぢさんが追い越して行った。
 この時間から登る人もいないだろうと思っていたが三々五々家族連れ、単独、テン泊らしいパーティなどなどに出会う。
 林道に下りて、13:45、水場。しっかりと出ていた。ここで一本取り、自宅のコーヒー用に2Lのポリタンに汲む。
水場 延々と続く
14:10  水越峠。
 さて、いよいよあの急登だ。
ツツジ園

 辛抱しながら足を出す。なかなか終わらない。
 30分ほどでいったんその階段が切れた。やっと終わったかと思ったが、まだまだ後半があった。

 それでも終わりは来る。一時間ほどで山頂直下の平坦地に出て、すこし遠回りのようにも思ったがツツジの中の道を歩いて15:25、山頂に立った。ここのツツジは風物詩になっていて、その時期が来ると必ず報道されるが、じつはその時期には来たことがない。
 登山客はいるにはいたが雪があれば雪そりで大賑わいしていることだろう。

 さすがに疲れて大休止。弁当の醤油のせいか喉が渇く。
 500mlのペットボトルと450mlのテルモスのお茶を飲み干した。
 正直言ってかなり疲れた。
金剛山
  時刻は15:30を回ったところだ。
 さてどうしよう。いろいろとルートを考えてはいたものの、ごく安直にロープウェイに乗ることにした。もう歩く気がしなかった。
めづらしくタイマーで撮ってみたりして・・・

 およそ7時間の山歩きだったが、さすがに最後の登りはこたえた。結局きょうの核心部だった。
 山頂も携帯の電波が入ったり入らなかったり。
 売店まで下って缶ジュースでパンを齧った。

  若いグループにあっという間に追い越されながらとぼとぼとロープウェイ乗り場へ行くと、ちょうど出たとこ。30分待たなければならない。
 タバコは切れている。
 ポケロから取り出しては吸い口をぬぐいながら数本吸ったことである。
 ロープウェイを降り、バスで駅まで。いくらだろうと見慣れない表示板をもたもたしながら見るうちにこれまた電車が出てしまい、まるまる一本待つハメになった。自販機でタバコを買うとやや古め。
 一角獣にメールを書き、最寄の駅まで迎えに来てもらった。
 帰宅すると焼酎がグラス一杯分しかなかった。外出中の娘にメールを書くと、「かまへんけど遅くなるけどええか?」と。
 もちろんかまわない。
 が、焼酎が届いたときは僕はもう毛布を被って寝てしまっていた。