【庭院】かこいにかこまれた庭。【玉勒】美しいおもがい。【勒】馬の頭にかけて、馬を御する革ひも。おもがい。【雕】彫。【雕鞍】一面に細かい彫りを施した鞍。【遊冶】酒色にふける。心身をとかすこと。【章台】花街。【乱紅】紅い花びらが乱れ飛ぶさま。【鞦韆】ぶらんこ。
  蝶戀花   蝶戀花ちょうれんか          欧陽修
庭院深深深幾許 庭院ていいん 深深しんしん ふか幾許いくばくぞ、
楊柳堆煙 楊柳ようりゅう もやうずもれ、
簾幕無重數 簾幕れんばく 無重数むちょうすう
玉勒雕鞍遊冶處 玉勒ぎょくろく 雕鞍ちょうあん 遊冶ゆうやところ
樓高不見章臺路 ろうたかくしてえず 章台しょうだいみち
雨横風狂三月暮 あめよこざまに かぜくるう 三月さんがつれ、
門掩黄昏 もん黄昏こうこんおおうも、
無計留春住 はるとどかんに はかりごとし。
涙眼問花花不語 涙眼るいがんもてはなえどもはなかたらず、
亂紅飛過鞦韆去 乱紅らんこうんで鞦韆しゅうせんぎてる。
雨は横ざまに 風は狂う 三月の暮れ (Feb.28, 2001)




 一読してまず引き付けられたのが、後半(下片)の第一句、雨横風狂三月暮。
 詩中の情景としてよりも、春にありがちな不安定な気候の中にいる自分自身をイメージした。
 この時期はなぜか心が騒ぐ。きっとこれは僕だけのことではないだろう。

 注を頼りながらあらためて読み進めていくと、舞台は妓楼。しかも特権階級が出入りする、言わば高級遊郭とでも言おうか。
 その遊郭の内庭にも、春の嵐が吹き荒れる。花が散っていく。春が過ぎていくのをいかんともしがたい「わたし」は、ただ涙で見遣るしかないのだ。