・拙を守る(Jan 20, 2001)
歸園田居 園田の居に帰る 陶淵明
少無適俗韻 少
(わか)きより 俗に適する韻(いん)なく羈鳥戀舊林 羈鳥
(きちょう)は旧林を恋い方宅十餘畝 方宅
(ほうたく) 十余畝(じゅうよほ)曖曖遠人村 曖曖
(あいあい)たり 遠人(えんじん)の村戸庭無塵雜 戸庭
(こてい)に塵雑(じんざつ)無く
陶淵明の「歸去來兮」の序文に次のような一節がある。
飢凍雖切、違己交病 飢凍切なると雖も、己に違えば交々病む
「いかに飢寒に迫られたればとて、自分の本性に負くことは精神的にも肉体的にも苦痛である」
かつて、糊口のために役人になったこともあるが、それは自分自身の本来の性質に背いていた。自分は世間とはうまく折れ合えず、山や丘と言った自然のなかにいるほうが向いているのだ。そのような忸怩とした思いを抱いているとき、妹が亡くなる。葬儀のために帰郷することになるが、これを機に「自ら免じて職を去る」、つまり役人生活を辞してしまう。陶淵明42歳の時であった。
「歸去來兮
糊口のためとは言え自分の性質に背くような生き方はできない。不器用な自分だけど、その自分に忠実に生きることでしか、自己を生かすことはできないのだ。
「拙を守る」とはそんな意味かと思う。そして、そのためには覚悟がいる。
参考文献
松枝茂夫・和田武司訳注『陶淵明全集』(岩波文庫)
松浦友久『中国名詩集−美の歳月』(朝日文庫)