春二題 (Feb.24, 2001)


贈范曄      范曄に贈る      陸凱

折花逢驛使   花を折って駅使に逢い
寄與隴頭人   寄せ与う 隴頭の人に
江南無所有   江南 有る所無し
聊贈一枝春   聊か贈る 一枝の春


 隴頭は隴山のそば、黄河上流である。異民族との境界域。江南から遥か北に位置する。
 江南は何も無いところだけれど、春は早い。もう、梅の花が咲いた。
 隴頭にいる友よ、元気にしているか。江南から春を贈るよ。




答人       人に答う       太上隠者

偶來松樹下   偶たま松樹の下に来り
高枕石頭眠   枕を高うして石頭に眠る
山中無暦日   山中 暦日無し
寒盡不知年   寒尽くるも年を知らず


 とくにこれと言った目的も無く山中を散策して松の木のもとへ来た。
 陽も暖かい。ごろりと石の上に横になってぐっすりと眠ったことだ。
 山中には俗世間の暦などありはしない。
 冬が終わり春になり、年が変わったが、今年が何年であるかなど、もはやどうでもよいことだ。

 作者の太上隠者については姓名・事蹟ともに不明。姓名をたずねられたとき、何も答えず、この詩一首を残して去ったという。

【太上】
1.大昔、三皇五帝がおさめていた平和な時代
2.非常にすぐれていること。最上。至極
3.天子。また、皇后
4.太上皇、天子の父の尊称。また、位を譲った天子のこと。

 太上隠者とは、解脱し世俗から隠遁した者の意であろうが、4.の意と考えたとき、この詩の感慨がより伝わってくるように思う。為政者としての日々絶えない心労から解放された一個の人間の独白として。