花下醉         花下かかう   李商隠
 尋芳不覺醉流霞    ほうたずねて おぼえず 流霞りゅうか
 倚樹沈眠日已斜    りて沈眠ちんみんすれば すでななめなり
 客散酒醒深夜後    きゃくさんさけむ 深夜しんやのち
 更持紅燭賞殘花    さら紅燭こうしょくって残花ざんかしょう
花下に酔う  (Mar.20, 2001)
【芳】かおり。【流霞】流れたなびくかすみ。仙人の飲む酒の名。「流霞酒」。【紅燭】あかくともるともしび。
【残花】『学研漢和大字典』では、散り残って色香のうせた花。つまり、多くの花が散った後、まだ枝に付いている花の意であろう。松浦友久は、そうではなく、「中国古典詩の用法では、落花、とくに地面に落ちて泥にまみれたり踏みしだかれたりした、残紅の形象が中心である」と書いている。(『中国名詩集−美の歳月』朝日文庫)


 この詩は艶かしい。
 酔って目を閉じてしまうほどの芳香。暗闇の中の灯り。そこに映し出される花。
 一方、ここには孤独な「わたし」がいる。
 孤独な「わたし」はどこまでもその芳香の中に身を任せようとしているかに見える。
 花とは女性のことであり、芳香とは女性の化粧の匂いであり、あるいは体臭であるかもしれない。
 とても官能的な詩だと思う。