旭−釈迦−孔雀−仏生−楊子ヶ宿跡
12月16日(2000年)
10:40 旭登山口着
 釈迦ヶ岳へは、春秋ともに何度か登ったことがあるが、すべて前鬼から。
 旭からも登れることは聞いていたが、じつはそれまでの道がよくわからなかった。
 DOPPOさんや、和歌山姉妹に教えてもらって、かつ、前鬼からよりも比較的短時間で登れるらしい。うまく行けば、仏生の先のテント場まで突っ込めるかもしれない。

 それにしても、旭登山口までの長かったこと。途中の林道で牡鹿が出迎えてくれる。
 天気は上々。すでに車が一台。先客あり。

10:50 出発
 山靴に履き替えて人の背丈以上もある笹の中の径を登り始めると、右足太ももに疲労感がある。先週の二日酔い以来風邪気味だったので治りかけとはいえ、体力も落ちているのかもしれない。
 笹の径が終わると眼前は広々とした稜線。もはや落葉しているけれどブナ林が広がる。やや風はあるものの、のんびりとした稜線漫歩の気分。この道はいいです。ほんとに釈迦へ行く道なんだろうかと疑ってしまうほど、前鬼からとは異質な風情。右にたぶん大日と思われるとんがり。ということはほぼ正面の高まりが釈迦ということか。
 古田の森の辺りで、深仙宿が見える。「おおおっ。深仙宿やんかぁ」。いっぺんに親しみが増す。倒木に腰掛けて昼食。お握りとテルモスに入れたお茶。甘納豆をひと掴み。
 頂上直下のテント場辺りで、下山者に出会う。
 「上には、もう誰もいてへんみたい」
 「そうですか」
 ムフッ。いよいよ一人か。頂上への登り辺りから雲に覆われ始める。風も強くなってきた。

13:20 釈迦ヶ岳山頂
 深仙宿からの合流点まで来ると、山頂は近い。雪がうっすらと覆っている。山頂ではもはや曇り。高曇りで、円さんの掲示板で見た写真どおりに八剣、弥山方面はよく見えた。
 弥山の稜線上になにやら二つの四角い出っ張りが見えま・・。
 僕の視力は1.2。最近新聞や本の文字は離さないと見えなくなってきたけれど、遠くのものはよく見える。で、四角い出っ張りが見えま・・。
 (いったい何のことを言っているのかわからないと思いますので、説明しておきますと、釈迦ヶ岳山頂から弥山の小屋が見えるのか見えないのか、どっちなんだろう? と。で、じつは見えま・・)
 5分もしないうちに、一人、深仙宿から上がってきた。この正月休みに吉野から10日ほどかけて熊野まで行こうという話になったので、後半用のガソリンや水のデポのために深仙宿まで上がってきたのだと言う。ついでだから山頂まで上がってきましたと。

13:30
 いよいよ、孔雀へ向けて。
 僕は、八剣−釈迦ヶ岳間を歩いたことがない。縦走すれば一度で済むことだが、そのためには、電車やバスの時間とかいろいろ調べないといけないし、だいいち早起きしなければならないだろう。だから、釈迦ヶ岳側から弥山へ向けて行けるだけ行って、そこで幕営。次の日は引き返す。後日、弥山側から釈迦ヶ岳へ向けてその幕営地まで行って引き返す。そうすればいちおうこの間は通ったことになる。
 その第1回目をきょうやろうという算段なのだ。

 さて、釈迦ヶ岳から下りかけたのは良いのだが、雪がついていて道が判然としない。かつ急な下りである。テープを目印に見当をつけ、滑らないようにおそるおそる木の枝につかまりながらやっとこさ下りる。念の為にアイゼンは持って来たが、まだ履く必要もないだろう。それから、鎖場、痩せ尾根が続く。風も強くなった。帽子が飛ばされそうになる。ずいぶん緊張した。行くのはいいが、この調子で風が強かったらテント張れへんのとちがうかなぁ。小心者の郭公はやたら心配性なのである。

14:45 孔雀山頂
 昭文社の地図に書かれている標準タイムをはるかにオーバーして、孔雀岳山頂。もはや、釈迦ヶ岳はガスの中。霰まじりの雨。
 ここから仏生へはなだらかな登り下り。稜線を歩いたり。巻いたりしながら、たぶん仏生はピークを踏まないのだろう。気がついたら通りすぎてしまっていた。それにしても、やたら倒木が多い。鹿を見た。雪道に鹿の足跡。

 時計は4時を回った。ガスの中のせいもあるがやたら暗くなってくる。日没は5時ごろだろうから、それまでに幕営地を見つけないとやっかいなことになる。そう思っても適当な場所が見当たらない。地図にある楊子ヶ宿跡は過ぎたのだろうか? 地図の時間では過ぎていることになるが、それもあんまり当てにならない。
 道がガレているところがあった。道はいちおうそこを通っているみたいだが、滑ったら谷底まで落ちてしまう。これは高巻くにかぎる。木の枝やら草の根を掴んでぐっと登り、ガレた上を通り、道に戻る。
 4時20分、こんもりとしたふくらみにトウヒかと思われる枯れ木が立っているところを過ぎた。好天ならばきっと見晴らしがいいに違いない。それを下りきった鞍部にようやく幕営できそうな場所を見つけた。火を焚いた跡がある。ここがどこかはわからないが、たぶん楊子ヶ宿跡ではないだろうか。

16:30 幕営
 誰もいない。僕一人。さいわい風もここでは強くない。まず、お湯を沸かす。泡盛のお湯割り。水は2リットルしかないから無駄遣いできない。濃い目のお湯割り。それから御飯とシチューを温め、スープ。残ったお湯はテルモスに紅茶のバッグと一緒に。
 シュラフにカバーをかけさっさと寝る。
 11時半に一度目が醒めた。おしっこに出ようかとも考えたが、靴を履かないといけないし面倒だし、やっぱり外へ出るのは怖いから、辛抱してうつうつしているうちにまた眠ってしまった。明け方まで何度か目が醒めてしまうが、そのたびに、「あの道をまた引き返すのはいやだなぁ。雪がびっしり付いていたらどうしよう。あの鎖場、痩せ尾根、怖いなぁ。旭の登山口の道路が凍結していたらどうしよう。」とますます不安になってくる。

07:15 起床
 パン一個をむりやりほおばる。コーヒーを飲む。やっぱり紅茶よりコーヒーのほうがうまい。テント場の近くを歩いてみる。舟ノタワ、七面山の看板が見える。と言うことはそこまで行っていないということだ。やっぱり、ここが楊子ヶ宿跡なんだろう。ガスに包まれていたせいか思ったより暖かい。

08:30 出発
 雨になった。雨具を着け、昨日の道を引き返す。ガスの中だ。雪の上に昨日の僕の踏跡がある。「ふうん、きのうの郭公君、がんばったんだぁ」なあんて、自分の踏跡に元気付けられる。

10:30 孔雀岳
 さて、ここから釈迦ヶ岳までが核心部。用心しなければ。風は昨日より穏やか。ただし、視界は利かない。急ぐ必要はない。落ちないように、滑らないようにそれだけを言い聞かせて、4箇所の鎖場、痩せ尾根をなんとか通過する。急登へさしかかる。昨日の記憶では、釈迦ヶ岳への登りになる。滑らないように気をつけて、1歩1歩登っていくと、途中で釈迦像が見えた。泣きそうなほどうれしかった。

11:45 釈迦ヶ岳山頂
 きょうは、八剣も弥山も見えない。
 昼御飯はラーメンを持って来たが、座り込んでいたら体を冷やす。甘納豆をほおばりながら再びブナ林の稜線漫歩。事故もなく帰って来れた。うれしい。笹の径。
 きょうは朝から誰にも会わなかった。昨日会ったのは二人。なはは。
 笹の径を抜け、登山口。

13:20 旭登山口
 4WDのおじさんが一人。ブナ林の雪を撮りに来たんだけれど、「この雨じゃあねえ。雪もないだろうし。アンテナを張って、無線で遊んでいたんだ」と言う。
 雨具を脱ぎ、セーターを着る。ラーメンを作ろうかと思っていたが、里心がつき、パンをかじりながら、「夢の湯」もパスし、ひたすら帰路を急いだのであった。