鈴鹿縦走―御在所岳、鎌ヶ岳、入道ヶ岳、宮指路岳、仙ヶ岳、野登山(Sept.22/24,
2001)
9月22日(土)朝明渓谷から御在所、武平峠
5時半にDOPPOさんとの待ち合わせ場所へ。今回は僕の方が早く着いたようである。車から降り、タバコを吸いながらDOPPOさんが来る方向へ目をやる。もう一本吸う。
「おや? どうしたのかな? おかしいぞ。途中で事故ったかな? それとも、僕との待ち合わせを忘れて今ごろ一人で西名阪を走ってたりして。電話をかけてみるか」
「この電話は現在電波の届かないところにあるか、電源が切れています」
なんかそんなアナウンスが流れてきた。
「ありゃ。それにしても、今からだと鈴鹿へは約束の時間には遅刻する。TOHRUさんにかけてみるか」
「この電話は現在…」
さっきと同じアナウンスだ。「あちゃー」
折り返しすぐ電話がかかってきた。TOHRUさんからだ。こちらの事情を話し、
「僕はいまからDOPPOさんちへ行ってみます。様子がわかるやろから」
とは言うものの、DOPPOさんちへは一度行っただけで、道をはっきり覚えているわけではない。「たぶんこっち」の勘だけでやみくもに走らせて行きつ戻りを繰り返すうちにやっと見覚えのある道に来た。この坂を下りればすぐだ。ここでもう一度電話をかける。
「もしもし」
「もしもし」
「DOPPOさん?」
「ごめ〜ん、寝過ごしてもうた〜」
てなわけで、一時間遅れで鈴鹿のインターを下りたところのコンビニに着いたのでありました。TOHRUさんが、ちょうど水、食料を車に積んでいたところであった。
RINさんは町内会の立山行きの引率だとか。
初日は、お茶畑の箱入り娘千草さんのサポートで、小岐須渓谷に車をデポして朝明まで送ってもらう。ここから根の平峠なのだが、途中から左の森の中へ入る。
「あれ? TOHRUさん矢印は右の沢沿いだけど?」
「大丈夫。こっちからも行けます」
TOHRUさん、たしかそんなふうに聞こえたぞぉ。
テープはところどころにあるが、道は途絶えがち。しまいにどっちへ行っていいかわからなくなった。見晴らしのきくところで、それぞれが地図とコンパスを出してにらめっこしながら「あの山がハト峰で北に見える」、DOPPOさんの高度計ではこのくらいだから、「谷を挟んで、たぶんこの辺だろう」、などなどと現在位置の比定に忙しい。TOHRUさんはたしか三種類の地図を持って来てたんじゃなかったかしら。
登って946のピークを越えて国見山へ向かうか、等高線沿いに根の平峠から国見山へのルートに向かうか、などなど話し合いながら横へ歩いたり、登ってみたり。
涸れ沢のようなガレ場は一見歩きやすそうでいて、いざ歩いてみると足元はゆるい。下手をするとぐずぐず崩れてしまう。木の枝はなぜかポキポキ折れてしまう。
森の中には、石垣が数ヶ所あった。また、平坦地では、焚火の跡もあった。かすかな踏み跡もあった。テープもところどころにあった。だからまったく人が入っていないわけではないのだ。
日当たりのいい尾根に出て12時近くだった。昼御飯にする。上に「キノコ岩」らしきものが見えた。「するとここはどのあたり?」
尾根に沿って登っていくうちに人声が聞えた。それもすぐ近くだ。どうやら浅い谷を挟んだ向かい側のようである。
ざくざくと背の低い笹の中を歩き、やっとまともな道に出た。
「道に出たよ〜」
僕たちは顔を見合わせて、笑顔で「ほっ」と一息ついた。
人声は、根の平峠から国見山寄りのルート上でお昼休みをされていたパーティだった。
この声が聞こえなければ、僕たちはもっと森の中をさまよっていたかもしれない。
これが初日のドラマだった。
キノコ岩、ゆるぎ岩、天狗岩を見ていく。御在所の藤内壁には数人が取り付いていた。
御在所岳は大人数で賑わっていた。
「先に行ってて」とDOPPOさん。ほんまの武平峠を右に下りるか左に下りるか、TOHRUさんに確認している。
「うん、わかった。わかった」
振り返ると御在所山頂からの階段をすごく辛そうに下りているDOPPOさんの姿があった。
武平峠を右に折れ、道路まであとわずかの平坦地でTOHRUさんがザックを下ろし、靴を脱ぎサンダルに履きかえる。
「休みますか?」
「ここやったら二張りはテント張れるでしょう」
「えっ? ここで幕営するの?」
「下までおりてしまったら、明日また上がるのしんどいし。千草が5時に食料と水を持って下まで来てくれることになってます」
僕たちはザックを空にして下の駐車場まで降りる。
「こうやって、二回目、三回目、最終回と参加すると、第一回目を休んだのがかえすがえすも残念」
その日、僕は弥山から楊子が宿だった。
「きょうのあれがなかったら、なんてことない道だったんですけどね」とTOHRUさん。
「でも、読図の稽古にはなりましたね。ま、三人だったから出来たんでしょうけど」
しばらくすると、千草さんの車が到着。「おや、後ろに誰か乗ってる。誰?」、じっと見るとなんとDOPPOさんである。「あれ? なんで? どうゆうこと?」
どうやら武平峠で左に折れトンネルの向こう側に下りた。「誰もいてへん。でも千草さんが通るはずやから、待っておこう」と言うことだったようだ。
食料、水をテン場まで荷揚げして、TOHRUさんが御飯を炊く。千草さんにおかず(酢豚)を作っていただく。
話題はなんと言ってもきょうの珍コース。
「一人だったら、やっぱり引き返していたでしょうね」
9月23日(日)武平峠から鎌ヶ岳、イワクラ尾根を経て入道ヶ岳、小岐須渓谷
翌朝、ふたたび武平峠まで上がり、急登を鎌ヶ岳へ。思いのほか早く着いた。
鎌ヶ岳から岳峠の方へ下る。鎌の西斜面は岩が露出している。やや荒荒しく見える。前回の鈴鹿を、僕は小憎たらしい小娘の魅力と書いたが、この鎌ヶ岳は、性を覚えたての若者の荒荒しさとでも言おうか。
鎌尾根を経て水沢岳。ここで僕たちはビールを飲んだ。
水沢岳からの下りを地図では急坂と記している。たしかに急だったがもっと急な下りを明日仙鶏尾根で経験することになる。
鎌尾根からイワクラ尾根へ。ずうっと鎌ヶ岳が見えている。重ね岩を過ぎ、椿大神社の奥宮でまたもやビール。入道は浅い鞍部を経てすぐ向かいにある。
入道ヶ岳からは鈴鹿、四日市の市街地、伊勢湾、さらに対岸の半島まで見える。あとは下るだけの気安さでのんびりとごろごろする。この入道ヶ岳の下にある椿大神社は昨年の12月RINさんに案内してもらった。ちょうど、名古屋で飲む日だった。
いささか休みが長すぎたようだ。
「じゃ、下りましょうか」
今日の幕営地小岐須渓谷まで、地図では1時間20分とある。二本松尾根を下り椿大神社への分岐で小休止。あとは沢沿いに「ほんのわずか」のはずである。
ところがそれからの道が長い長い。「まだぁ?」ってゆうほど長い。
「地図おかしいんとちゃうか」
そんな愚痴が出るほど長かった。一本道だから間違えてるはずはないのに。
しまいには、白い岩を小屋の屋根と勘違いしてしまうほど、長く感じられた。
それでも、歩いていればいつかは着くものだ。
「ふう、やっと着きました」
デポした車のそばにテントを設営。ぬるかったけれど、車に積んでいたDOPPOビールで乾杯。TOHRUさんは、再び御飯を炊く。
「御飯を炊くのはTOHRUさんの主義やね」
「そうです…ね」
きょうは、ちらし寿司、ごぼうのサラダ。味噌汁。
今回、TOHRUさんはどうも靴が合わないらしくつま先を痛がっていて、明日は違う靴で行こうと、その靴をRINさんに持って来てもらうような電話をしてはった。
RINさんは、きょう帰宅予定とか。
酒を飲み、御飯をいただきすっかり寝てしまっていたが、何時ごろだったろうか、RINさん登場。と言っても、僕は眠くて眠くて、顔も見ずに声だけかけてまた寝てしまった。
9月24日(月)宮指路岳、仙ヶ岳、野登山
朝起きると、TOHRUさんはあっという間に昨日の御飯の残りで巻き寿司を。二本食えば腹いっぱい。
きょうは、荷を軽くして、宮指路岳、仙ヶ岳、野登山、そしてこの小岐須へ下りる。鈴鹿セヴンマウンテンには入っていないけれども、これもやっておきましょう、と。宮指路岳は標高が946m。この高さからついた名前らしい。
林道をつめ、大石橋を渡ったところで右へ折れて山道に取り付く。けっこうな急登だが順調なペースである。東海展望を経て、三体仏岩。鈴鹿にはこのように所々に岩のオブジェがある。浅い鞍部を経て宮指路岳山頂。ここにも馬の背だったか岩のオブジェがあった。
いったんぐっと下って登り返したあたりに、難場「犬返しの険」。左右は花崗岩のザレ場で谷まで。いくつかの岩に攀じ登って向こうまで渡るのだが、僕のような高所恐怖症には、ちょい気持ち悪いところだ。手のひらに汗をかく。慎重に慎重に。小社峠で一服。
仙ヶ岳への登りは藪を刈ってあった。たしか二回目の鈴鹿のとき、RINさんは野登への登山道の藪を刈りに行かれたはずだ。あるのとないのとではやはりちがう。
仙ヶ岳山頂からも鎌ヶ岳がバッチリ見える。
野登岳へは仙鶏尾根をいったんぐっと下る。その下りの急なこと。ひとつひとつの下りはそれほど長くはない。ひとつ下りれば、踊り場みたいなところがある。それを何度やったろうか? 四つか五つは下ったのではないか。その急なことと言ったらつま先がツンツンどころの話ではない。をっとっと、をっとっとなんて言いながらひとつひとつを下っていく。
「いやあ、きょうのコースもなかなか。決して付録じゃないですね。しっかり登ってしっかり下る」
やっと野登山のアスファルトの道に出た。お寺まであとわずかである。
2時に小岐須でRINさんが待ってくれている。打ち上げでバーベキューをしてくれるそうである。小岐須への下りがわかりにくかったが、TOHRUさん、地図とにらめっこでなんとか見つけてくれて、あとは、ビ〜ル〜、焼肉ぅ〜である。とは言うものの急な下り。
藪は刈られていて、そうか、ここをRINさん達が刈ったのかと感慨にふける。さらには、100m単位で登山口までの距離が表示してあった。これは有り難かった。
2時をちょいまわったところで小岐須渓谷。
「ふう、やっと着きましたぁ」
RINさんがいた。鈴鹿山岳会の会長さんもお見えになっていて、ビールの差し入れをいただく。
車の陰に隠れて着替えを済ませ、さあ、ビ〜ルぅ〜。焼肉ぅ〜。
RINさん、ごちそうさまでした。
鈴鹿は今年初めてで、三回来たことになるけれど、やはり縦走となると経験者がいないと道に迷いそうなところが随所にあった。とくに大瀞から杉峠までは、危ないところはないにしても読図力が求められるだろう。
TOHRUさんに案内してもらって貴重な経験をさせていただいた。
鞍掛峠から御池、藤原もまたいつか必ず行ってみたくなった。
DOPPOさん:No,301 鈴鹿セブンマウンテン 第4回 御在所岳、鎌ヶ岳、入道ヶ岳 水沢岳 宮指路岳 仙ヶ岳 野登山