小峠山から孔雀岳、釈迦ヶ岳、前鬼−孔雀尾根完歩 (June 29, 2003)

 水尻から小峠山に登り、そこからさらに孔雀尾根を奥駈に上がる。つまり、孔雀尾根を端から端まで完歩し、孔雀から、奥駈の核心部を経て釈迦ヶ岳へ。そして、太古の辻を経て前鬼へ下る。これを日帰りでやろうと言う。
 いかにも健脚のD氏ならではの発想である。3月ごろだったと思うがすでにこの計画は聞いていた。
 「いくらなんでも、非力な僕にはとてもとても」と、じつはしりごみをしていたのだ。僕なら一泊する。
 6月に入って、ゆっくり地図を眺める機会があった。おおまかではあるが所要時間の計算をしてみると、なんとか僕にも行けそうな気がしてきた。行けるかな?
 「じゃ、行きましょうか?」と言うと、「2時集合やで〜」。
 2時ぃ〜?。草木も眠る丑三つ時ではないか。もっとも爆睡中の時間だ。山中およそ10時間から12時間だと思っていたから、多少早めに動くのは覚悟していたけれども、2時ぃ〜?。
 前夜、寝ておかないとと早めに布団に横になるが、なかなか、そうそう、眠れるものではない。
 12時を回って、もう眠るのはあきらめて、コーヒーを飲む。
 
 御所から吉野を過ぎ、大台の下の長いトンネルを抜け、前鬼橋を渡ってすぐ右に折れ林道を走る。真っ暗な林道を走るのは決して気持ちのいいものではない。ましてや、鳥目の郭公である。右の谷に落ちないように、道の穴ぼこにタイヤを取られないように、路上の木の枝を蛇ではないかとおののきつつ前鬼のつり橋に到着。一台をデポし、もう一台で、水尻の登山口まで引き返す。
 空はもう明けていて、朝焼けが美しい。

04:50 出発。
 腹ごしらえのあと、では、行きましょう。
 もっとも若いタンタン氏、ダブルストックでぐいぐいと急登を詰め、高度をかせぐ。
 次はどんさん。我々の中では最長老氏である。がしかし、達者である。3番目を歩く僕との間もどんどん距離が開いていく。殿がD氏である。
 僕はこの道は初めて。かなりな急登であることは聞いていたが、最初の30分がまずきつかった。いったん平坦な道になり、再び急登。南斜面が伐採され展望が利くところへ出た。 それからさらに二度か三度の急登をあえいだ。

06:35 小峠山。
 「ふう、ここか」
 予想では2時間から2時間半くらいではないかと思っていたが、2時間かからずに来れた。トップを引いたタンタン氏のペースにはなかなかついて行けなかったけれども、それなりにいつもより早かったのだと思う。
 僕としてはこれでようやく、十郎山と小峠山をやったことになり、いつだったか伊勢辻山で会ったおじさんに顔向けができる。十郎山では迷うし、小峠山はかなりな急登。
 「やれやれ」
 それでも、やはりうれしいものだ。

 この調子だと、釈迦ヶ岳でお昼御飯かな?と希望的観測が脳裏をよぎったけれども、まあ現実はそうもいかなかった。
 さて、次はp1477.6まで。
 地図的には距離はあるものの、アップダウンはさほどでもなさそうと思いきや、なかなかこれがどうしてどうして。某氏の失踪事件もありいの、五百羅漢展望の写真タイムもありいので、もっとも、睡眠不足がいちばん応えていたのかも知れないが、たびたび一本取ることであった。ガスの付いた奥駈を見上げると、大日が見えたり隠れたり、虹も見えた。
 p1477.6のすぐ手前のピークが三重滝からの尾根の合流点になっている。ここからほんの少しその尾根に沿うと正面に五百羅漢がバンと見える。
 
10:05 p1477.6
 やっとここまで来れた。ここから奥駈までは1時間半で行ける。
 D氏「腹減った」。
 p1551あたりは絶好の展望所になっている。大普賢は残念ながら雲の中だった。
 ここまでは緩やかな尾根である。
 さて、あとひと登り。

11:30 奥駈との出合い。
 ここまで登るともうガスも晴れてスカッとした空模様である。
 梅雨の晴れ間とはいえ、まるで真夏を思わせる。
 一本取り、トウヒの倒木帯で記念写真、鳥の水で水の補給を兼ねて昼食。
 孔雀岳の手前で谷を覗き込むと屹立した巨岩が見える。クジャク又右谷であろうか。

12:45 孔雀岳。
 孔雀と釈迦の間は奥駈の核心部と言っていいだろう。鎖場あり、岩場あり、痩せ尾根あり。ほっと気が安らぐ穏やかな道もある。


13:45 釈迦ヶ岳。
 最後の登りはしんどかったが、ここまでくればもう安心。あとは下るだけだ。
 お釈迦さんの足元に腰掛けて長々と足を休ませる。
 深仙宿で水場を確認。右の岩場を伝って落ちているところはまだ元気があったが、左の岩場は僕が初めて登った頃は普通に汲めていたけれど、いつごろからか沁み出る程度になってしまった。だから汲み方に工夫がいる。
 いつだったか、誰かが笹の葉を一枚差し込んでいて、水はその笹を伝ってポタリポタリと落ちていた。「なるほど」と感心したことである。鍋を据えてテントに戻り、酒を飲み一時間くらいして見に行くと、鍋一杯になっていた。

 D氏「大日登るやろ?」
 郭公「僕は高所恐怖症やから。釈迦は何度も来たけど、大日は登ったことないんですわ」
 タンタン氏「行きましょう」
 D氏「あそこやで」
 郭公「ゲッ。あんなとこ登るの?」
 D氏「あかんと思ったら右に巻き道あるから」

 仕方がないから、鎖場の手前の一枚岩までは行ったけれども、その一枚岩をよじるのはちょっと腰が引けてしまった。怖い怖い〜。
 タンタン氏は委細構わずずりずりと登って結局鎖場も苦もなく登って大日の頂上へ。
 僕は、右に巻いて登った。

 それから太古の辻から二つ岩へ。前鬼へ下りる道である。
 
 釈迦ヶ岳は僕のテント泊デビューの山だ。その頃は旭からの道を知らなくて、いつも前鬼から登っていた。だからこの道を歩くのは何年ぶりかになる。すごく懐かしかった。随所にはしごが付け替えられて歩きやすくなっていた。
 最後の沢を渡るともう小仲坊は近い。道も歩きやすくなる。
 
 小仲坊へ着くと、三重滝への入り口を確認。
 さて、もうあとわずかでフィナーレだ。
 「この辺はヒルがおるで。ヒルに食われたってほっといたらええんや。血を吸うだけ吸うたらコロンと自分で落ちよる」と言った張本人がまずヒルに食われた。
 「おいおい」
 ライターの火を近づけると、
 「あちち。足が燃えるがな」
 やっぱり煙草の火が良さそうだ。
 「ちょい待って」と、吸いたくもない煙草に火をつけて、やっとこさヒルを撃退。しかししぶとかった。

18:20 前鬼つり橋。
 つり橋を渡って、「ふう〜。はい、お疲れさま」。全員と握手。
 山中約13時間半であった。日の長いこの時期だからこそできたのではないか。
 ザックをおろしてヒルがいないかどうか、「おったおった」。靴を脱ぐと最長老氏の靴下の上に。これまた吸いたくもない煙草に火をつける。

 風呂はあきらめていたけれど、とりあえず上北山温泉薬師湯で車を停めると10時ごろまで開いてるようだ。ラッキー。

 帰りはさすがに眠たくなった。ガードレールをこすりそうになったり、平気でセンターラインを跨いだり、後続のタンタン氏がパッシングで警告する。
 「おっと、寝てたわ」



どんさん:小峠山から孔雀、釈迦、大日、前鬼へ

DOPPOさん:No,376 小峠山から孔雀岳、釈迦ヶ岳−正面に五百羅漢(大峰中部)