初めての岩湧山

 息子と大山に行くことになった。
「ちょっとぉ、うちらは行ったらあかんのぉ?」と一角獣。プチ一角獣は「どっちでも」と涼しい顔である。
「えっ? そらかまへんで。ほな、一緒に行こか? でも、行くんやったら、近場で一度歩いといた方がええで。そしたら連れて行ったる」
 なんだか、かつて同じことを言われたような気がする。
 そんなことで、一角獣、プチ一角獣と一緒に岩湧山へ行った。九月の終わりか十月のはじめ頃だったと思う。窓から見える山なのに、私自身も今回が初めてであった。息子は学校の行事で行ったことがあり、「岩湧ぃ? オレはええわぁ」と遠慮する。
 紀見峠から民家の中を過ぎた辺りから登りになる。沢を離れると急登である。3合目までがけっこうしんどい。山頂で昼食。下りは兼松新道を転げるように下りた。蔵王堂のそばに下りる。それから左へ、編笠山から一徳坊山を目指す。途中左側が切れた崖の上を歩く。その辺りで振り返ると一角獣がくるんとコロンでしまった。大事には至らなかったのは幸いだった。ほんとにコロンと転んでしまったのだ。
 なんせ初めてのことであり、下ってからの帰り道が良くわからなかった。段々と日が暮れてくる。家族ともども疲れてくる。
「バスは通らへんのぉ?」「駅はまだぁ?」そんなこんなの苦情も聞きながら、タバコ屋のおばさんに聞きながら、やっとスーパーのあるところへ出た。それからやっとバスに乗った。バスに乗ったときはもはや暗かった。近場の山行だったけれど、ずいぶん時間がかかってしまった。
 そして僕たちは大山へ行ったのだった。