1994年11月 稲村ヶ岳

息子と稲村ヶ岳へ行こうかと話をしていると、一角獣は「うちらも行って当然」の顔つき。プチ一角獣は「やれやれ」って顔つき。それでも前回の大山が気に入ったのか、別段の不服も言わずついてくる。
大峰山系までは遠い気がする。車で二時間も走らなければならない。でも、自宅から見える葛城、金剛、岩湧の次に近いところなのだ。遠い分だけいささか不安だけれど、洞川へは子供たちは学校の行事で行った事があると言う。むしろ私と一角獣がはじめてなのだ。
初めてのことで、車をどこに停めていいかわからない。結局、母公堂のそばに家族を待たせて、僕は一番奥の山上ヶ岳登山口の駐車場に停めた。
母公堂のそばから入り、緩やかな登りが続く。法力峠から陽の当たる巻き道。無理のない道だ。稲村小屋まで二時間と少しかかったろうか。雨になってきた。無人小屋の庇の下で雨宿り。
 「うちらはここまででええから、二人で頂上まで行ってきい」、一角獣が言う。
 なんせ初めての稲村だからここから頂上までの道がわからない。地図には片道40分ほどになっているが、往復1時間半前後かかることになる。11月のことだ、待つほうもじっとしていれば体を冷やす。と、言ってみんなで敢えて行っても雨がさらにひどくなれば、まともな雨具も持ち合わせていない頃のこと、ずぶぬれになるだろう。
 「よし、では下りよう」。仕方がない、妥当なところだろう。
 それから、レンゲ峠へ。レンゲ辻を下りるのだ。けっこう急な下りであった。涸沢を道と間違えそうになる。しばらく下りて、あずまやがあった。そこで昼食。アルファ米とカレーである。
 林道へ下りた頃はもはや雨はあがっていた。
 稲村ヶ岳初登山は登頂を果たせなかった。しかし、こんな山行もあることは今後何度か経験することになる。