伊吹の風 (May 3/4, 2002)

 自宅を早朝出たにも拘わらず名神に乗ると渋滞につかまった。先頭は大津だと言う。大津が近づくと八日市だと道路情報は告げる。きょうは伊吹山頂でテント泊の予定だから時間は充分にある。急ぐ必要はない。それでも菩提寺PAのあたりまで来ると比較的スムーズに動き出した。
 そのPAで朝食とも昼食ともつかない軽い食事をとる。
 米原が近づくにつれ伊吹山は正面にどっかりと見える。
 米原ICを降り闇雲に伊吹へ向かって走る。伊吹へは過去5年ほど毎年来ているが、車で来るのは初めてだ。今回の伊吹山行には別の目的があった。この連休を利用して、山を下りたら近江平野の遺跡、神社などを見れるだけ見ておこうと思っている。
 まず、コンビニを探し食料を調達。右往左往しながらようやっと見慣れた近江長岡からのバス道に出会う。登山口のバス停を過ぎ登山口の三宮神社へ。今度は駐車場を探さなければならない。どうやら近くのは満車状態である。こういうときは地元の人に聞くに限る。
 「ゴンドラ乗り場の駐車場はまだ空いてたよ。こっから上へちょっと行ったとこ」
なるほどまだ余裕があった。一日千円とある。
 「明日の朝下りるんだけど」
 「何時ごろ?」
 「そやねえ、8時か9時ごろかな」
 「ほな千円でええわ」

 いったん登山口まで下り、湧き水を2L汲む。明朝下りるまでの水はこの2Lと500mlのお茶だ。
 1時半、樹林帯の山道に取り付く。ここ数年、7月の第一土曜に登っている。梅雨の最中のこと、この一合目までの樹林帯はすごく蒸す。でもきょうは違う。風が通っているし、湿度もなさそうだ。さほどの汗もかかずに一合目まで。
 草付きのスロープには黄色い花や白い花が咲き乱れていた。その緑の上には青い空。パラグライダーは飛んでいない。少し風が強いのかもしれない。小休止のあと急登をゆっくりと登る。草の上で休んでいる人たち、下る人たち、GWの好天、人は多い。三合目手前の踊り場のような平坦地で遅めの昼食。コンビニで買った稲荷寿司を取り出すと、ポリ袋が風に煽られいま登ってきた坂の方まで飛ばされて行った。あらら、追いかけると更に飛ばされる。登山道脇の茂みに引っかかってやっと止まってくれた。そう言えば映画「アメリカンビューティー」でスーパーの袋が風にふわふわ踊っているシーンを長く映していたけれどどんな意味があったのかわからないままだ。

 三合目では紫の花も咲いている。7月とはまた違った花々である。
 伊吹山頂がきれいに見えている。リフトの切れ目の四合目からごつごつした岩まじりの山道。五合目でさらに一本。伊吹は低山ながら高原気分を味わえる。また、平野部にすっくと立ち上がっているために、標高1377mをまるまる登ることになり結構しんどい。
 頂上を見上げると下山する人たちが点々と見える。南には霊山が見え、その向こうに鈴鹿の山並みが見える。もちろん琵琶湖も。
 7合目まで来ると鈴鹿連山に雲がつき始めた。きょうはpanaちゃんが行っているはずだ。この時間だからもう雲の下までおりていることだろう。
 登山口で駐車場のことで話をした単独のおじさんがガイドブックを片手に登ってきた。
 「いやあ、ニリンソウがいっぱい咲いてますね。こんなに多いとはね」
 そうこうするうちにこちらもガスがつきはじめた。九合目ではもはやガスの中である。
 
 小屋の裏の幕営地には意外にもテントはひとつもなかった。風が強くなってきた。ザックを重石がわりにテントに放りこみ設営。
 風でテントはたわむけれど、中に入れば別世界。さっそく飲み始める。そのうち、ついに雨が降り始めた。空気窓から侵入する。口をきゅっと閉めるが風のためにゆるくなってしまいにほどけてしまう。また締め直す。滝のように流れ込んでくるような雨ではなかったのがさいわいだった。
 息子と殺生のテン場で泊まったとき、夜中、この空気窓から雨が滝のように流れ込んできた。
 
 朝目が覚めるとなにやら水浸し状態である。空気窓からだけではなく、底にもどこかに穴が空いているのかもしれない。テントの縫い目からも染み込んでいるようだ。
 紅茶を沸かしてパンを食べそそくさと撤収。雨に濡れたテントは重い。まだガスの中だ。
 新装のトイレにはシャッターが下り、鍵がかかっていた。
 6時すぎ下山。七合目あたりでやっと視界が開けた。下のほうで子供の叫び声が聞こえる。きっと三合目のホテルに家族連れが泊まっていて、早起きの子供が外へ出て何やら叫んでいるのだろう。その叫び声が周期的に聞こえる。下るにつれ、より明瞭になってくるとどうやら子供のそれではなさそうである。五合目の手前で登ってこられた東京からの二人のパーティの方が、「キジの鳴き声ですね」と。キジってあんなんやったっけ。どうやら発声源はすぐそばの草むらの中のようである。

 のんびりと小休止をとりつつ、結局9時すぎにゴンドラ乗り場の駐車場へ。山靴をスニーカーに履きかえる。何枚か持ってきた地図を取り出し、「よし、まずは息長広姫陵からだ」
 きのうのおばさんに礼を言い、僕は駐車場を出た。