蛇谷ヶ峰から武奈ヶ岳、坊村―おそらく「滝谷越」で彷徨するの巻 (Jun.1/2, 2002)
6月1日(土)
 かねてよりぜひ歩いてみたかったコースのひとつ、蛇谷ヶ峰から武奈ヶ岳。早朝目が覚めたもののぐずぐずしてしまい、出遅れてしまった。

09:50 近江高島
 バスが10時25分。
 「こりゃあ、今日中にワサビ谷までは無理やな。武奈ヶ岳までの途中で幕営するしかないな」
 バスはガリバー村行き。畑へは行かない。

10:45
 運転手さんに聞いて鹿ケ瀬道で下りる。左にはリトル比良から釈迦岳の山並みが見える。目を凝らすと、「ああ、あそこがオーム岩だ」。カラ岳の電波塔も見える。この縦走はきつかった。低山ながらアップダウンがいくつもあった。
 畑まで15分くらい歩き、地図どおりに集落の中の一本道を抜けると自然と山道になった。朽木へ抜ける広域林道を横切る。これも地図どおり。道には木の枝が覆い被さりくぐったりよけたりしながら進んでいくと、道は段々になった平地の端をこそぐように付いている。地図に実線で示されたルートとしてはいささか心細い気がした。右を見れば浅い谷を挟んで杉の木に所有者を表わしていると思える白いテープが亀の甲状に巻かれていた。そっちへ行っても道らしきものはなかったから、今僕が歩いている踏跡で間違いないと思った。踏跡がないわけではないのだ。ひょっとすると、この畑から蛇谷ヶ峰へのルートはあまり使われていないのかもしれない。そんなふうにも思った。とにかくあるような、ないような踏跡に従いながらガリガリと急斜面を登った。見上げると亀の甲状に白いテープを巻いた杉の木が何本も見えた。その上が尾根である。
 「ふう。あそこまで行けば、蛇谷ヶ峰から武奈ヶ岳への一般ルートに合流するはずだ」
 地図的にも間違いないはずだ。
 ようやっとその尾根まで上がると、踏跡があるのかないのか定かではない。テープもない。
 「蛇谷ヶ峰、武奈ヶ岳間はそれほど歩く人がいないんだろうか? それにしてもテープもないなんてちょっと不親切に過ぎる」
 僕はそんなことを思いながらとりあえず一本。もちろん、このときはこの尾根が縦走路だと思っていた。谷を挟んで対面の高まりが蛇谷ヶ峰であろう。地図的にはこの尾根を右へ取る。すると細いながら道があった。
 「そやそや。これで間違いない」
 いったんぐっと下ると造林小屋があった。ここで尾根が左右に分かれていた。道がある右に取る。ヘビがいた。
 「おっとっと」
 さらに下ると畑の集落が見えた。
 「ありゃ、これって下ってるみたいやな。これは違うで」
 造林小屋まで引き返す。蛇谷ヶ峰は対面なんだからと尾根をまたぐような下りの道を見つけ下りかけた。
 「でも、地図的には下りなくていいはずや。この道とも違う」
 引き返すと左へ尾根に沿った道があった。
 「これかな」
 ずんずん歩いてさらに次の稜線に取り付いた。蛇谷ヶ峰の方へ向かって歩くとやはり谷へ下りそうだ。
 「これでもない。引き返したほうがよさそうだ」
 ずんずん引き返すと、ピンクのテープを亀の甲状に巻いた杉の木が幾つもあった。
 「ありゃ? こんなところなかったぞ。戻りすぎたかな?」
 じたばたしても始まらない。昼食にする。と言ってもパンをかじるだけだ。
 予定としては、今ごろ蛇谷ヶ峰に着いていなければならない。自分が今どこにいるのかも定かではない。
 「ひょっとして、蛇谷ヶ峰へも行けず今回の山行は終わるのかも。かっこわるいなぁ」
 テントがあるから最悪どこででも寝れる。低山だから里へ下りるのはさほど難しくはない。山中で道に迷ったことは何度かある。そんなことで気分としてはわりと冷静だった。
 食事を終えて引き返す。別の尾根に下りかけたが、先ほど来た道とはどうも感じが違う。周りを見ると、蛇谷ヶ峰との間にもう一つ稜線が見えた。さっき来たときは谷を挟んですぐ蛇谷ヶ峰が見えたはずだ。
 「そうか、向こうの尾根だな」
 さらに引き返し、「そうそう、これだった」
 造林小屋までやっと引き返し、いちばん最初の尾根に上がったところまで戻るのが正解だと思っていた。
 「あそこを右に取ったのが間違いだったのかもしれない。左へ行ってみよう。もしそれで、蛇谷ヶ峰へ行けなくて武奈ヶ岳へ行ってしまってもこの際仕方がない」
 そんな気持ちで戻りかけると、その尾根を巻くように右に道が付いていた。
 「おや? ひょっとすると、これか?」
 テープこそないものの、地面には赤い杭が打ってある。これがテープの代わりかもしれない。
 この道は沢をつめるように登って行き、ついに明瞭でなくなった。どっちの方にも行けそうなあるかないかの踏跡のようにも見え、風によって集積された段々の木の葉が道に見えたのかも知れなかった。
 途方に暮れた。さて、どっちへ行こう。ぐるっと見渡すと何やらぽっかりと空いた木々の切れ間があった。道かもしれない。そっちへ歩くと、ふふふ、道だった。木の葉が敷き詰められてよく踏まれた道とも言い難いけれど道であることには違いない。谷を挟んで左へ巻いて、「そうそう、この稜線を伝えば蛇谷ヶ峰へ行けるはずだ」
 僕はひと安心し、一本。斜面では鹿の足音が聞こえる。

 その落ち葉の敷き詰められた道を登ると三叉路に出た。道標は一方はボボフダ峠を、もう一方は蛇谷ヶ峰を指していた。僕が登って来た方には矢印がない。出たとたんに道はしっかりと踏まれたスーパーハイウェイに様変わりした。テープもある。
 僕は蛇谷ヶ峰への道を人心地つきながら急いだ。すぐかと思ったら20分かあるいはもう少し歩いたのではないか。途中、木の間越しに赤い色が見えた。もう三時前だからテントを張っていてもおかしくはない。近づくとなぜか紅葉したカエデだった。「やれやれ」、疲れていれば幻視もある。

14:58
 ようやっと蛇谷ヶ峰山頂。
 若い女性二人がいた。思えば長い道程だった。
 リトル比良からの縦走路も見える。武奈ヶ岳も見える。武奈ヶ岳は品格のある山容だ。
 暑さのせいで予定以上に水を飲んでしまう。
 いったいどこで間違えてしまったのか? きっと、畑からの登山道への入り口そのものを間違えてしまったのだ。
 遅れた分だけ余分に歩き、きょうできるだけ武奈ヶ岳に近づいておこう。
  
 蛇谷ヶ峰から武奈ヶ岳への縦走路は思った以上に快適だった。高低差が少ない。さっさと歩けた。ボボフダ峠は畑へ下りる分岐になっている。道はしっかりしていそう。つまり、やっぱり、間違えていた。あの尾根はいま地図を見直すとどうやら滝谷越だったようである。
 ホトトギスの鳴き声が聞こえる。どうやら「テッペンカケタカ」と「トッキョキョカキョ」と両方の鳴き声があるようだ。見知らぬ花も咲いている。ヘビもいる。

17:05
 ヨコタニ峠を過ぎ、地蔵山で17時5分だった。もう少し、日没までは歩いてみよう。山中のこと日が暮れたのかどうかも定かではない。山に遮られて日が射さないだけだろう。ずいぶん疲れてはいたけれども、もう少し、もう少しと思いながら歩いた。そのうち平坦なところもあるだろう。

18:00
 ちょうど6時にイクワタ峠だった。釣瓶岳が正面に見える。進めばいったん下る。風もないし、ここなら見晴らしもいい。ちょうどひと張り分のスペースもある。
 よし、ここで幕営だ。テントを張ると何やら虫がいっぱい寄ってくる。水が不足気味だ。ラーメンだと600cc。スパゲティだと100gで1リットル。ひと袋200gある。こりゃラーメンだな。レトルトのご飯を温めるから余分にコッヘルに注ぐとポリタンの残量は悲しくなるほど減ってしまった。焼酎はストレートで飲まざるを得ない。水で割ってたら明日の飲み水がなくなってしまう。酒の肴のおかきを食うと口の中の水分が吸い取られてかさかさになってしまった。
 かっこうの鳴き声も聞こえた。
 さっさと飲んでさっさとご飯を食べてヘッドランプも要らないうちに寝てしまった。夜、雨になった。さいわい通り雨程度だったか。


6月2日(日)
 好天だ。テントをゆすり水滴を落とす。そろそろ動きだそうかと言うとき学生風の5人くらいのパーティ。八雲ヶ原からだと言う。ずいぶん早起きだ。4時には出発しているものと思う。
 僕も5時50分、出発。

06:18
 釣瓶岳で6時18分。パンをかじる。水の残量だけが心配だったが、ここまでくればあとはなんとかなる。若者のはしゃぐ声が聞こえる。きっと武奈ヶ岳山頂からだろう。うらやましくなってしまう。
 「武奈ヶ岳まで上がって西南稜をワサビ峠まで行ったら、いったん谷に降りて水を補給しよう。そのとき、スパゲティをゆがこう。あとは御殿山から坊村へ下りるだけなのだから、そこでゆっくりしよう」

07:15
 釣瓶岳からひとつ、ふたつと小ピークを越える。もうひとつあったかなと思いつつ登るとそこが武奈ヶ岳だった。7時15分。先ほどの嬌声のパーティかどうかは知らないがやはり学生風のパーティがいた。堂満を経由すると言う。
 早朝にも拘わらず陽射しは強い。じりじりと焼け付くようだ。
 
 西南稜をワサビ峠へ。ワサビ峠から谷へ下りる。
 昨年の11月テントを張った。
 水を遠慮なく飲む。武奈ヶ岳山頂の彼らが通り過ぎていく。
 「ずいぶん遠回りをするんやね」
 それからスパゲティをゆがく。
 ほぼ一時間の大休止の後、ふたたびワサビ峠まで上がる。御殿山まではさらにひと登り。9時半だった。

 さて、あとは下るだけ。長い長い急な下りだ。足は痛くなるし、40分40分のところをまるまる2時間かかってしまった。下りきる直前、軽装のお兄さんに追いつかれた。すれ違った記憶がないところをみると僕がワサビ谷に降りている間に御殿山から武奈ヶ岳へ行かれたのだろう。いろいろ話をしているうちに、
 「帰りはどうします?」
 「バスで出町柳まで行こうと」
 「堅田でよければ送りますよ」
 「えっ? いいんですか。そりゃあ、ありがたいです」
 僕は急に元気になって彼の後に付いた。

 車中でいろんな話をした。彼もHPを持っていて月に2度はこのコースを歩いて情報提供をするつもりでいるとのことである。検索方法を聞いたけれど、どうもそれらしいのにまだ到達していない。HNは「としちゃん」。
 ぜひお礼を言いたいのだが…。


追記:2003年10月12日
きょう、「としちゃん」からメールをいただきました。偶然に僕のページが見つかったとのこと。
その節はほんとうにお世話になり、ありがとうございました。またお会いしたらお声をかけてくださいませ。よろしくお願いします。



としちゃんの比良山系武奈ヶ岳 西南稜