とにかくしんどかった。アップダウンがきつい。まっすぐ登ってまっすぐ下る。それの連続だった。南奥駈もかなりしんどかったけれど、ここはそれ以上だろう。もっと人が入っていればつづら折りの道にでもなろうかとも思うけれど、踏跡そのものがあるようなないような、目前のピークにむかってガリガリと登るしかない。テープもそのように付いている。
地図を見ながら思い返しても、思い出せない箇所がいくつもある。ただただしんどかった。その思いだけが残っている。振り返ってみれば、馬の鞍峰から添谷山までが、台高縦走路の核心部ではないだろうか。きっとそうに違いない。そう思わせるほどのしんどさだった。
しかし、なんとか歩けたことで、この台高縦走路を繋げてみたいと思い始めている自分もまた一方にいるのだった。
9月14日(土)
5時半から6時には出るからと言っていたのに、眼が覚めたのが5時半だった。それからバタバタとザックに詰め込み、自宅を出たのは6時を回っていた。途中のコンビニで弁当やパンを買い込む。何とか間に合いそうな気もなくはなかったけれど、国道から分岐して大台ヶ原への誘導路が記憶以上に長く、結局30分も遅刻をしてしまった。
大台ヶ原の駐車場では、もっとも遠くから来ていたRINちゃん、M田、M原、それにN村氏は7時半には着いていたとのこと。
「やあやあ、ごめんごめん」と挨拶もそこそこに、車2台をデポして、1台で大迫ダム入り口へ引き返す。M田、M原氏とは昨年、鈴鹿の大瀞でお会いした。絶妙のコンビである。車の中では相変わらず笑わせてくれる。N村氏とは今回が初めてだけれど、これまた気さくなお兄さんであった。それに若いからだけではなく、相当の体力の持ち主だった。 三人ともに、RINちゃんが「行く?」と声をかけて集まった四日市のつわものである。まあ、RINちゃんの子分みたいなものだと言えば語弊があるかも知れないけれど。
大迫ダム入り口に着くと、ほどなくDOPPOさん、どんかっちょさんが到着。
馬の鞍峰への登山口から滝を過ぎ、カクシ平で昼食。薄暗がりで湿度は100%以上もあろうかと思われる蒸し加減だった。ヒルもいた。でもこのあたりまではまだまだ序の口である。とちの実を両方のポケットがいっぱいになるほどたくさん拾った。
ふうふう言いながら馬の鞍峰への尾根に出るとパラパラっと雨になった。しばらく様子を見て、ザックカバーだけ着けた。
馬の鞍峰を経て痩せ尾根を通り、どこがどうだったか記憶にないほどとにかくアップダウンを繰り返した。
初日の幕営予定地は地池越。まだかまだかと思いつつ歩いた記憶だけが残っている。
「そこぉ?」
「標識板あるかぁ?」
「ううん」
「たしか、標識板があったはずや」。
このコースをすでに経験しているのは、このメンバー中DOPPOさんだけである。
さらに、何度か上り下りを繰り返し、先行の元気印の四日市組が鞍部でザックを下ろしている。
「そこぉ?」
「ここ、ここぉ」
地池越の標識板があった。僕たちはようやっと初日の苦行を終えたのであった。
テントを張る係り、水を汲む係りと用を済ませて、さあ、晩御飯。RINちゃんはすき焼きを。M田、M原両氏はご飯を炊く。
経験的には山ではそれほどご飯は食えないけれど、とにかくすき焼きが美味いのだ。松阪牛。RINちゃんはグラム260円と言っていたけれど、値段以上に美味かった。いきおいご飯も進む。鍋のリミット7合も、だれもがお代わりをしてきれいになくなってしまった。
9月15日(日)
夜中から明け方にかけて雨になった。
さいわい動き始める頃にはやんでいた。
尾根歩きだから迷うはずもなさそうなのだが、途中からテープが見えなくなった。もうすぐ山ノ神ノ頭のはずである。
「あれ?」
尾根伝いに杉の樹林帯を進んで、「こりゃ違うなあ」。木間越しにすぐ別の尾根が走っている。
テープがあった最終地点まで引き返すと、「あった、あった」。
向こうの尾根に渡るようにテープは90度方向を変えていったん下っている。迷いやすいところである。
「そやそや、ここでオレも迷たんや」とD氏。
ぐっと下ってぐっと登り返すと山ノ神ノ頭。
展望の利く斜面で11時半になった。ちょいっと腹が減っていたから、
「ご飯にします?」
「まだまだ、向こうにええとこがあるんや」。
僕は背に腹は代えられないとパンを1個かじった。
またもや下ってまたもやぐっと登って、途中石楠花の森を抜けた。さぞやその時期になれば圧倒されるにちがいない。じつはその石楠花の森がどのあたりだったのかは定かではない。地図に書いているからたぶんこの道中だったのではないかと思われる。
1094のピークがふたつあり、そのふたつめを過ぎたあたりで昼食。DOPPOさんのお気に入りのポイントである。
杉又高を過ぎ、地図では逆コの字形の尾根を通る頃はほとんどよれよれ状態であった。僕は倒木をまたぐときズボンを引っかけてお尻にかぎ裂きを作ってしまった。
難儀な道が続き、思う以上に時間を費やした。大台辻で幕営予定であったが、水場のある引水サコにテントが張れそうならもうそこにしようという雰囲気である。その手前にも適地はあったが水がない。
RINちゃん曰く、
「引水サコでテント張れへんかったら、水だけ汲んで引き返さなしゃあないでな」
引水サコへようやっと到着。時間も時間だし、何とか張れなくもなさそう。
沢の上の比較的緩やかな斜面に4人用テントをふたつ張る。
水は細かったので時間はかかったけれど流水を汲めた。
沢の平坦なところで飲み始めながら、ご飯を炊いているとポツポツときた。
「雨か?」
しまいにボトボトと降ってきてザアーッと言う音になった。それぞれが周りの道具や酒や水やらを持ってテントへ引き返す。RINちゃんがイワシ丼を作ってくれる。これがまた美味だった。
ごはんの後もチビチビと飲んでいると、テントの外ではN村氏がなにやら頓狂な声を上げている。
テントの中では、RINちゃんはバーボンで徐々に舌が回らなくなってくる。優歌団の歌をどうも僕には調子が外れているのではないかと思われたが元歌を知らないためにそれ以上のことは申し上げられない。そしてRINちゃんは外へ出たきりなにやら叫んではいるがなかなか帰ってこない。
どんかっちょさんが心配になって見に行き、何が何やら状態でテントに収容。沢からテントへはもっと緩やかな斜面を上がってくればよさそうなのに、もっとも急なところをよじ登ろうとしていたようである。
朝起きてみると、あそこが痛い、ここが痛いと。
RINちゃんほとんど覚えていないそうである。
9月16日(月)
空は明るかったが、出掛けにパラパラっと降ってきた。かぎ裂きのこともあり、僕はズボンだけ雨具をつけた。青空は見えていて、陽射しもあるのに降っている。まるで狐の嫁入りである。
もはや慣れっこになったガリガリの急登を上がると痩せ尾根の岩場、御座[山/品]である。用心しながらその痩せ尾根を下り添谷山へ。
添谷山を過ぎると、道はとたんに歩きやすくなった。周囲はブナの原生林。やっと周りをみる余裕も出てくる。巨木が立ち並んでいる。
「ほおーっ。素晴らしい」。
大台辻まで下りてしまうと、後はスーパーハイウェイ。緩やかだし道幅も広い。金明水を汲み、ぐんぐん巻きながらひょいっと川上辻へ出た。
12時を回った頃だったか。
「ふう、やっと終わったで〜。お疲れさんでした〜」
DOPPOさん:No,340 台高南部縦走 馬の鞍峰から大台ヶ原 大樹の森を行く
どんかっちょさん:馬ノ鞍峰〜大台ケ原縦走