[魚咸](うぐい)谷高−台高の双耳峰 (Apr.13, 2003)

 昨年の5月、DOPPOさん、どんかっちょさん、郭公の3人で池木屋から迷岳へ歩いたとき、南に見えたきれいな双耳峰。それが[魚咸]谷高である。その山容と風変わりな山名によってすぐに覚えたけれども、大阪からはかなり遠く、地図には登山道が示されていないために、なかなか行く気にはなれなかった。

 最近、大峰山系の主稜線の周辺の山にちょくちょく出かけるようになった。
 冠雪の大峰を眺めながら静かな山歩きが楽しめる。地図に道が示されていないと、かなり勇気もいるけれど、行けば道はあるものだ。自分なりにルートを考え、登山口を探すのも悪くない。
 そんな山行を繰り返すうちに、
 「そうだ、[魚咸]谷高。あそこへも行ってみたい」
 そんな思いがふつふつと湧いてくる。書店で25000の地図を見る。これにも道は示されていない。ネットで検索しても山行記はヒットしない。
 「なぜなんだろう? きれいな双耳峰なのに」
 ますます行きたくなってくる。
 
 そんな思いでいた頃、DOPPOさんと話をする機会があった。3月22日、雨の日曜日のことである。
 DOPPOさんには、五番関、中の谷出合と、2週連続で途中で撤退という不本意な山行にお付き合いさせてしまい、この[魚咸]谷高も果たして行けるかどうかわからないので、「ごいっしょに」とも言いかねたけれど、興味を示していただき、「では、仙千代ヶ峰へまず」行くことになった。宮川貯水池を挟んで隣の山なのである。下山して時間があれば、登山口を探そう、と。
 それが、3月23日の仙千代ヶ峰行きの発端であった。

 仙千代ヶ峰の稜線から、[魚咸]谷高がきれいに見えるところがあった。
 「六十尋滝の尾根から行けるのでは?」
 「あの、発電所の送水管が沿っている尾根は?」
 などなど検討を重ねる。

 下山して、宮川貯水池にかかる赤い橋を渡ったのも、この[魚咸]谷高への登山口の下見のためである。
 六十尋滝の右の谷に向かって踏み跡があったが、奥は見上げるほどの断崖である。はたして尾根に上がる道があったのかどうか?

 第三発電所まで車を入れる。
 送水管がはるか上からこの発電所内に岩場の中をぐんと下っている。その脇には階段があった。しかしこれは発電所専用である。だいいち、僕たちは発電所内には立ち入れない。
 大杉谷への入り口のところに登山口らしきものがあったが、トラロープが張ってあった。
 ひょっとするとここから登れるのだろうか? これを登ると、あの階段に途中で合流していそうな感じである。(実際はそうではなかったが)
 でも、ロープが張ってあるのだから立入禁止なのだ。
 「うーん、あかんか」

 仕方なく乗船場の駐車場まで引き返す。
 DOPPOさんの姿が見えなくなったと思ったら上のほうから声がする。斜面をこそいだような道があった。かなりの急登をあえぐと尾根に出た。
 おそらく送水管に合流する尾根ではないか? これは、なんとか行けそうだ。
 先を登っていたDOPPOさんが下りてきて、
 「上にテープがあったで。行けるんとちゃうか」

 僕たちは他日を期して帰途についた。
 これが、仙千代ヶ峰下山後のあらましだ。

 その他日がついに来た。

4月13日(日)

 寝過ごして遅刻しそうになり、顔も洗わず自宅を飛び出し、5時にDOPPOさんと合流。
 仙千代と同じルートで宮川まで。迷うことなく貯水池にかかる赤い橋を渡り左折。
 六十尋滝を過ぎ、乗船場へ。

07:40
 山道に取り付く。
 急登の上に週末の寝不足がこたえてやたら体が重い。
 30分ほどで送水管の尾根に合流した。
 よくもまあ、こんなものをこんなところに設置できたものだと感心してしまう。
 送水管の横にはコンクリートの歩道、階段が付けてあった。鉄梯子もあった。
 あっと言う間に高度を稼ぐ。
 一本取ったあとさらに登ると、ついに送水管は山中のトンネルらしき中に隠れた。急登はさらに続く。アンテナの立つ小屋があった。ここで一本。
 ウグイ谷を挟んで山頂が見える。
アンテナ小屋にて 朴の木平より[魚咸]谷高

10:10
 さらに登ると「朴の木平」。急登続きだったからほっとひといきである。体を投げ出してくつろぐ。
 [魚咸]谷高山頂は指呼の間である。山頂へはウグイ谷をぐっと稜線沿いに巻く。その稜線へももうすぐだ。

 いったん鞍部に下り、登り返してやっと双耳峰の稜線に出た。
 右は[魚咸]谷高、左はp1233.0。
 稜線を伝ってまず左へ。

10:55
 p1233.0。中井高。
 ここまでですでに3時間を過ぎている。距離はたいしたことはないと思うが急登続きだったからだろう。DOPPOさんの高度計では標高差1000mを登ってきたことになる。かなりしんどかった。

p1233.0 中井高 [魚咸]谷高山頂はすぐそこ


 稜線を引き返して、いよいよ[魚咸]谷高へ向かう。池木屋山、迷岳の稜線から見えたときはきれいな双耳峰だったが、実際にはふたつほど小ピークがあった。
 途中で4人のパーティに会った。
 僕たちとは逆の父ヶ谷の林道から登って来られたのだという。僕たちもその林道は知っていたし、山頂直下まで登っているから比較的容易に登れるのではないかと思っていた。
 でも、これだとちょっとね。

11:55
 ついに1291.3m、[魚咸]谷高のピークに立った。
 差し出されたDOPPOさんの手を、軍手を脱ぐのももどかしく握り返す。
 「おめでとうございます」

 もやがかかって展望はいまいちだったけれど、穏やかに晴れて暖かい。
 僕たちはゆっくりと昼ごはんを食べ、シートに寝転がった。

 500mlのお茶をあとふた口分ほど残して下山。
 登りは一本道のように見えても下りになるとやはり迷った。間違いそうになる。
 なんでもない登りのように見えても面倒がらずにテープを巻いておいたほうがよさそうだ。下りの難しさを痛感する。
 
 朴の木平を過ぎ、アンテナ小屋を過ぎ、送水管に沿って下る。

稜線にて なんとかって言う白い花 そうそう、たむしば?

15:40
 やっと林道へ。8時間の[魚咸]谷高行であった。

 なお、昭文社の「大台ヶ原 大杉谷・高見山」地図面には[魚咸]谷高と表記されているが、裏面には[魚成]谷とあり、山名板も両方の字が使われていた。辞書では[魚成]。
 ここでは[魚咸]に統一した。

DOPPOさん:No,368 宮川ダムからウグイ谷高