薊岳、山頂直下で敗退するの巻 (Feb.5, 2005) |
笹野神社から薊岳へ、記録を振り返ってみると2001年4月以来のことである。
問題は雪の量だ。山頂が近づくと痩せ尾根になり、直下に岩場の下を木の枝を掴んでへつるところがある。ここらあたりをうまく通れるかどうかだ。
6時前に自宅を出る。まだ暗いが、寒くはなかった。フロントガラスに霜が下りているかも知れないからペットボトルにお湯を入れてきたがなんともなかった。空は曇り。
07:45
先々週と同じく取水場の広場に車を止め、防寒用に雨具を着け、山靴を履く。15分ほど引き返す。
笹野神社 | 稜線へ。植林帯の中 |
08:25
笹野神社。すでに雪が積もっている。安全祈願。
民家を過ぎ山道に入ると踏跡がなくなった。
道はそれとわかるし、テープもある。登るにつれ雪は徐々に深くはなったがまだアイゼンもワカンも不要だ。植林帯の中を歩く。
10:25 稜線。
ここでワカンを履いた。
風はなく、日差しもあり、素手で紐を締めたが寒さは感じなかった。
踏跡のないまっさらの雪を歩く。膝下の雪が徐々に深くなる。ワカンを履いてるとは言え時々膝上まで潜ってしまう。ストックもまた20cmから30cm、ついにはまるまる潜ってしまった。
やっと稜線へ。ここでワカンを履いた。 | 静かな道。 |
徐々に深くなる雪。これを越えて行く。 | 木屋の尾頭。さらに深く。 |
植林帯の急登、誰もいない、モノクロームの静かな世界である。
自分自身の荒い息遣いだけが聞こえる。
そうそうさっさとは進まないのである。何度も何度も立ち止まらざるを得なかった。
一歩一歩踏み出しては潜り、引き上げる。かなりきつい。しかも登りである。
ところによってはクラストしてカリカリになっていた。
青空 | 岩に付いた雪庇 |
ようやっとピーク(木屋ノ尾頭)に達すると雪は一段と深くなった。木々は重たい雪で枝を垂れている。薊へはこれを左へ折れる。赤テープのそばを歩こうにも枝が邪魔をする。強引に突っ切ったり、膝を落としてかがんだり、斜面を巻きながらいつの間にか全身雪まみれになってしまった。
毛糸の帽子、娘が小さいとき編んだものらしいが、サイズが大きくゆるゆるなのである。自然と目の前を塞ぐ。何度もずり上げる。雪が解けて再び凍り、氷の玉がいくつもできている。
いよいよ痩せ尾根に差し掛かった。
ワカンを脱いでアイゼンに履き替えようかとも思ったが、やや蟹股ぎみに歩き、爪を効かせ木につかまる。
登りはなんとか登れるにしても下りの方がむしろ難しいかもしれない。
岩場をすぎていったん浅い鞍部に下りる。木の枝は垂れ、雪はこぶ状に膨らんでいる。
ザックに縛っていたスコップで除雪することであった。
岩場の急登。雪がしっかり付いている。「うーん、万事休したか?」
ここでもスコップで除雪し、足場を確認。木の根、岩の角、枝を掴んでやっとこさ越えた。越えたのはいいが、帰りはどうしよう?
「ここをもう一度歩くのはいやだなぁ・・・」
内心、薊を越えていっそのこと明神平まで行ってしまおうかとさえ思っていたのである。
薊から明神平までは雪こそたっぷりあると思うが危険なところはない。明神平からはしっかり踏まれているから下りも早い。日のあるうちに下りれれば、大又林道終点から車のところまで歩いて一時間である。
70cmほどの段差だったろうか、手をついて登りかけると気がつかないうちにスコップを手から離していて、それがすうっと斜面を滑り落ちて行った。
「あらあら。きょう一回しか使っていないのに」
先日ホームセンターで348円で買ったのである。
別れを惜しみつつ滑るのを見ていると木の幹にコツンと当って止まった。
そろっと下って回収したことである。ストック同様、紐をつけておいたほうがよさそうだ。
薊岳山頂はもうすぐ。予定よりだいぶ遅くなってしまったが、昼ごはんは薊岳山頂でとも思っていたのである。
12:55
がしかし、最後の難関、痩せ尾根の下をへつるところに来ると、雪がびっしりと付き、谷の下まで急降下状態である。
ここをほんのすこし下り、岩の下を巻くのだが、雪がないときでも木の枝に足をかけたり枝を掴んだりしなければならないのだが、それが全て雪に隠れて何にも見えないのである。
「こらあかんわ」
その急斜面を一瞥しただけで、僕の生命維持装置が赤ランプを点している。
とうとう万事休してしまった。「とてもとても」
滑ればおわっつである。引き返そう。引き返すしかない。とは言うもののじつはそれも怖いのである。
ここで敗退。痩せ尾根の岩場の先端。 道はこの右を少し下り巻く。 ほんのわずかである。 鞍部に出てひと登り、数分で薊岳山頂のはずである。 |
稜線に出てここまで2時間半かかっている。以前の記録を見てみると、稜線から1時間で薊の山頂である。これが僕の体力なのだ。
少し引き返し、日当たりのいいところでお昼にする。
手袋を脱ぎ、まずテルモスのお茶を。御飯はいつものコンビニ弁当だが、ようよう半分だけ食べ、あとは残してしまった。下りのいくつかの危険箇所に緊張して食事が喉を通らないのだ。
ゴアの手袋だがあちこち破れて防水になっていない。じっとしているとかじかんでくる。
ザックにぶら下げた温度計では零度くらいであったが、寒さそのものは感じなかった。
食事を終えお茶を飲み、「では」と引き返す。思い描いていたいくつかの危険箇所も案外簡単に通り過ぎてしまった。「なんやぁ」
やっぱり青空があると安心する。 | お世話になりました。 |
木屋ノ尾頭へ登り返す頃、太ももが攣った。それも左右ともにである。
何度も立ち止まり、その都度前屈して筋を伸ばす。
ピークから下りかけたところで、右のワカンが外れてしまった。
「あらあら」
丸い輪の付いた紐がワカン本体に繋ぐ留め金具から抜けてしまっているのだ。
もうすぐ稜線の分岐だし、さほど困りはしない。しょうがないから右だけワカンを外し、左右の潜り具合をチェック。早い話、左ワカン有り、右ワカン無しで歩いただけのことである。たしかに、幾分は違うかなと言った程度である。
稜線の分岐を右、笹野神社へ下る。途中で、左のワカンも外した。
15:55 笹野神社。
無事、事故もなく下りれた。