十郎山―魔物の棲む・・・ (Jul.5, 2008)


 二ヶ月の長期休養明けにしてはいささか遠大なルートではないかとのご批判は甘受する。 それでも行きたかったのは、マイナールートとはいえ、奥駈への尾根がすばらしいし、奥駈の某所から星を眺めてみたい気もあった。
 泊まりであるし、時間は充分あるからまあなんとかなるだろうと。
 ところが、そうはいかなかった。予定の三分の一で撤退を余儀なくされた。

 十郎山へは過去二回登った。
 一度目と二度目は別の取り付き点から登った。
 今回、記憶があいまいだったせいもあるが、初めての取り付きではなかったか。少なくとも二度目のそれではない。
9:00 ザックをおろして体ひとつ入れるゲートくぐる。
9:20 林道を20分ほど歩き、橋を渡って山へ入る木の階段があった。同行のピッケル君と「じゃあここから」と取り付いたのである。

ここから取り付いたのだが・・・


 廃屋を過ぎると徐々に道なき道になった。(この廃屋には記憶がなかったからたぶん初めての道を歩いていると思ったのだが、帰宅して過去の写真を見ると一度目はどうやら同じところから取り付いていた)
 細かなことは省くが、獣道か杣道か不分明な踏跡に見えそうなところをガリガリと登る。

10:30 一本取る。
 チョコレートを食うと口内の水分がチョコレートに吸い取られたような感じでうまく嚥下できない。水で飲み下す。

 何気にピッケル君がズボンをまくると「ゲッ」。
 ヒルがスネに食いついている。
 体のあちこちを点検すると、「ここにも、ここにも」と結局四匹くらいいたのではなかったか。
 「気持ちわりぃ」
 「ピッケル君、生物学科なんやろう?」
 僕はヒルはさほど怖くない。ヘビはめちゃ怖いけれど。
 ところが僕は一匹も食いつかれなかった。
 「そうなんや、僕はヒルにも嫌われてるんや」
 この頃はまだ冗談が飛び交っていたのである。

 尾根にさえ出れば道があるはずだからと上を目指すがさすがに疲れる。滂沱の汗。
 さらに登ると巻き道に出た。右か左か?
 左へ行くと向かいの尾根と交差するはずだ。ところが崩落して前へ進めない。
 「直登しましょうか」とピッケル君。それはいかにもきつい。引き返して右へ。ところがそれはどうやら下りそう。
 またもや、獣道か杣道か不分明な踏跡らしき急登をガリガリと登る。この頃までは同じ道を下ることも想定して数箇所にテープを巻いていたのだ。

なんだかこんなとこばっかり歩いたような


 さすがに直登も無理っぽいから右へ巻くとモノレールに出た。
 これまたかなり急登だったが、これに沿う。登りつめ平坦地に出たあたりで「ご飯にします?」
 時計を見ると12:30を回っていた。あらあらもう三時間を過ぎている。

モノレールに沿って。先を行く元気なピッケル君


 海苔巻きを口に入れると先ほどのチョコと同じく口内の水分が海苔巻きに吸い取られるようで、むしろ口中がからからになった。お稲荷さんを食べても同じこと。お茶で流し込むしかなく、結局この二個を食べたのみで、食欲が湧かなかった。残りはいずれ食うことにする。

 平坦地を過ぎ、モノレールの終点を過ぎ、急登を詰めると右上に山頂らしき高まりが見えた。
 その時点で僕はもうくたくたになっていた。左くるぶしの上あたりが攣る。体を伸ばして休みたい。眠りたい。
 「ピッケル君、どっかで30分だけ寝かせてくれ」

 山頂まであとわずかのところで辛抱たまらず、ザックからマットを引っ張り出し斜面に倒れこんで目をつぶる。靴を脱ぐ。靴下を脱ぐ。
 ピッケル君はその間に山頂へ。
 出張明けのピッケル君だが芯は結構タフなのである。コンパスを出し、地図を見ながら現地点の同定。僕はあいまいな記憶のままである。
 時刻は二時を回っていたか。予定をこなせるかどうか微妙、と言うよりも時間もさることながら体力的にもかなりきついだろう。
 奥駈まで上がってしまわなければ水場はない。このどこかでテントを張るには水がないのだ。
 「下りたほうがいいでしょう」というわけで、情けなくも僕は十郎山さえも行けずに下山。
 最後の3ハロン、直線一気どころか競争中止の態である。
 まだまだ余力のあったピッケル君には申しわけなかったけれど、僕としてはそうするしかなかった。
 下りはモノレールに沿うのが確実だろうと、じっさい下ってみるとつま先がツンツンするような急斜面だったが、なんとか林道へ下りれた。

 上北山温泉で脱いだシャツはとんでもなく重かった。それだけ汗をかいた。久しぶりの大汗。それだけが収穫だったか。ひとムチ入れて、少しはしゃきっとしたかもしれない。
 必ずリベンジしよう。