七曜岳から奥駈出合 (Sept.19, 2010)

 山から遠ざかって久しく、ここ三年ほど古代史で遊んでいる。
 元気であちこち見て回っているが、さすがに体力は落ちた。神社の石段を上がるのさえふうふう言う。お腹は出てくる、足は細る。
 つい先日、山仲間と飲んだけれど、「ああ、俺は山の話題など何にも持ち合わせていないんだ」。
 そんなことも心のどこかにあったのかもしれない。

 8時前だったが、熊渡の数台の駐車スペースはすでに塞がっていた。大川口は逡巡するうちに通り過ぎた。トンネル西口も同様、路肩まで溢れていた。弥山、八剣は賑わっていることだろう。今の僕にはいささか面映い。少し手前のふくらみに停め、トンネル西口へ。

トンネル西口から行者還岳への登山口―静かだった。

8:00
 奥駈出合へ向かわず、手前の行者還側の道を取る。ゆっくりと歩幅も小さく、我ながら頼りない足元だ。奥駈の稜線が近づく頃振り返ると、鉄山のとんがり、左の大きなかたまりは弥山、両山の奥が頂仙岳だろう。

9:00
 一時間で奥駈道に出た。
 「そうそう、この雰囲気」。
 ずいぶん久しぶりの大峰だったが、気分としてはちっともブランクを感じなかったのが、すこし嬉しくもあった。大峰の魅力はなんと言ってもこの奥駈道にあると私は思っている。
 ここから奥駈出合まで歩いて下る予定だったのだが、まだ余力はあったので、行者還方面へ歩くことにした。
 誰にも遭わずのんびりと好天の奥駈を歩く。大普賢が右奥に見える。

奥駈道にやっとたどり着いた。

10:00
 ほぼ一時間で行者還小屋。単独者が僕を含めて五人だったか。
 さあ、どうしよう、まだ10時だ。
 「行者還は展望はないけど、七曜だったら大普賢が間近に見えるよね」みたいな話題になるが、ちょっと遠いかな? 僕の地図では1時間45分だったが、誰かのには1時間とあるそうだ。いずれにしても昼までには着きそうだ。
 「僕も行こうかな?」
 行者還への急登を巻く。稜線に出て、行者還のピークへの道を左に見ながら七曜へ。
 岩場を巻く、階段を上る、ほどなく無双洞、和佐又への分岐だった。
 「あれ? もうここまで来たのか。一時間で来れたぞ」

七曜から大普賢。

11:00 七曜岳
 山頂はこれまた数人の単独者と、大普賢側からの四人のパーティ。それだけでも山頂は満席である。
 昼食にはまだ早い。携帯はあいにく通じなかった。一本取って引き返す。
 追い越されてばっかりのスローペースだが、久しぶりの奥駈を楽しんでいる。
 岩場を巻いて平坦なところへ出て、「あっ」と言う間もなく前へつんのめり気味にバタッと倒れた。まるで漫画ちっくな倒れ方だった。小石の出っ張りか木の根に右足を引っかけたのだ。
 「ううっ」
 右手のひらが痛い。左はどうもない。足もどうもなさそう。
 誰かに見られたら恥ずかしいぞ。
 とは言え、すぐには起き上がることもできず、倒れた状態で体の点検。
 さいわい無事そう。
 ようやく立ち上がる。右手のひらに小さな出血。胸ポケットのデジカメはタバコがクッションになったらしくこれも無事。

奥駈道の一齣(1)

12:25 行者還岳
 往路ではパスした行者還。道標には山頂まで7分。せっかくだからピークを踏んでおこう。ただ、さすがにこの登りはきつかった。このあたりが今の僕の体力なんだろう。
 小屋へ下ると誰もいなかったようだ。素通りして奥駈出合方面へ。
 この頃から、わずかな起伏でもきつく感じられた。
 若い二人が食事中。それを見遣って進むとかなりの登りである。
 「俺も食うか」と、マットを出してコンビニ弁当とパン。チョコレート。

 「さあ、行くか」
 ザックを背負い、麦わら帽をかぶる。出掛けに、いつものメッシュの野球帽が見当たらず、麦わら帽をかぶってきた。ツバが広いから日よけにはなるが、後ろはザックに当るし、前は視界を狭める。いささか滑稽に見えるかもしれないが、ツバを上げ加減にするとちょうどいい。
 正面の高まりに取り付くと二人のランナー。
 「すごい。走ってるんですか?」
 「うーん、走れてませんね」
 そうはおっしゃるもののあっという間に見えなくなった。

14:00
 朝、登ってきた分岐で一本。道標には奥駈出合まで1.3km。時間的には充分行ける。
 単独者が追いついてきて、彼もここで一本。
 彼もここから登ってきたそうだ。ここで下りるか奥駈出合まで行くか?
 「もしこれから、奥駈を繋ぐことを考えると、出合まで行っといたほうがいいと思うよ。ここで下りると、ここから出合までの道が中途半端に残ってしまうんよね。道もいいし」

 一の多和、三本栂への分岐を過ぎる。巻き道が稜線に戻る頃、人声が聞こえはじめた。弥山から下った人たちの声だろう。出合までもうすぐか。

奥駈道の一齣(2)

14:45
 出合で一本。
 スローペースだけれど、なんとかこなせた。
 
 ほどなく先ほどの単独者。
 「お先に」と声をかけて下る。
 登りも急だから下りも急だ。かなり荒れているようにも思われた。ひざが痛くなった。 木の根に引っ掛けないように用心しいしい下った。

15:35
 下って沢でペットボトルに水を汲んだ。