記憶
暗く垂れ込めた雲。西の一角だけがまっ黄色に染まっていた。
窓辺に腰掛けすぐ下の浅く狭い川を見ると、黒い魚が川下に向かって群れをなして泳いでいた。
鮒か? 鯉もいるにちがいない。
ここは、別れた妻とその姪が一緒に住むアパート。
生活費の足しにとごくわずかではあるが、いつもは書留で送る。思い出したように、こうしてアパートを訪れる。
僕は姪に向かって言う。
「また、遊びに来たらいい」
別れた妻が、
「あたしだけ行ってもいい?」
「それは困る」
空は相変わらず暗く、西の一角だけがまっ黄色だ。
川はいつの間にか水が引いていて、逃げ遅れた小魚が川床で跳ねている。小さな蟹が物憂そうにのろく動いている。
帰らなければ。帰り着けるだろうか。
駅までの遠い遠い田んぼ道。あちこちで通行不能だった。
やっとたどり着いた駅はやたら黄色い光りに包まれていた。
Aug.22, 2003