孤高の塩見岳 (Aug.13/14, 2004)

 milionさんと塩見岳へ行くことになった。
 塩見岳は南アルプスのほぼ中央に位置し、北部の山域(甲斐駒、仙丈、北岳、間ノ岳、農鳥など)とも、南部の山域(荒川、赤石、聖、光など)ともやや距離があるため、縦走に含めるのは難しく、大縦走を敢行しないかぎり、塩見岳単独の山行になってしまう。
 僕自身も甲斐駒はまだだが、この塩見岳も一山ぽつんと残ってしまっていたのだ。
 
8月12日(木)
 21時、金剛駅でmilionさんと待ちあわせ。
 藤井寺インターから西名阪、名阪国道、東名阪、名古屋での慣れない高速の乗り継ぎもうまくいき、中央道を松川で下り、大鹿村を目指す。小渋ダムあたりだったか鹿を二頭見た。
 深夜のこと何度か確認のために車を停め地図を見るけれど、老眼が進行し車内の明かりでは地図の小さな文字は読みづらかったが、なんとか間違いなく塩川登山口に着いたのが2時をいくらか回ったころだった。すでに10台近い車が停まっていた。空は満天の星である。

8月13日(金)晴れ
 車内で仮眠。朝方はずいぶん寒かった。
 塩川が1328m、塩見岳東峰が3052mだから二日がかりで標高差およそ1700mを登ることになる。
 さいわいにも好天である。

塩川登山口 沢沿いの道 3/10あたり

07:15 出発
 塩川沿いに比較的緩やかな道を歩くと1/10、2/10と言うふうに標識があった。あとでおそらくそうとわかったがどうやら三伏峠までの高さの経過を示しているように思われた。
 3/10あたりで沢から尾根に取り付く。ここまでで約一時間。
 ここからがかなりな急登であった。ふうふう言いながら、40分から50分くらいで休みを入れる。
 三回目の休みは見晴らしの利くところで、東京からと言う三人のパーティの方と一緒になった。

尾根道 仙丈、甲斐駒

 「あれが仙丈で、あれが甲斐駒じゃないかな?」
 「いや、なんか近すぎない?」
 意見は分かれたが地図を広げるとやはりそうだと言う事になった。
 甲斐駒は山頂部のざれた花崗岩の白さでそれと知れる。仙丈は立派な山容である。
 手前に間ノ岳。北岳がどれか定かではなかったが、どうやら間ノ岳の向こう側にやや隠れて見えていた。
 僕たちは大阪から約330km、東京からの彼らは285kmで塩川だったと言う。
 
 鳥倉林道登山口との合流点がすぐ上にあるらしく、はっきりと声が聞こえた。
 この合流点から三伏峠までは20分とあるがこれまたかなり急登である。

11:50 三伏峠小屋
 やっとの思いで小屋に到着。
 milionさんが幕営の受付をしている間、小屋前のベンチに座り込んでいると、かつてはうら若き女性たち五人のパーティが到着。
 「おや?」
 彼女たちにはかすかに記憶があった。ひょっとしたら以前、薬師岳からスゴ乗越、越中沢岳、五色ヶ原、室堂と縦走したときに出会った埼玉フォーリーブスの皆さんではないだろうか? でも、あのときは四人だった。
 
 テントを張り、まずはビールで乾杯。昼ごはんはうどん。
 その頃、彼女たちが横の道を通って行く。リーダーのお姉さんと目が合う。

塩見岳


 今から塩見ではないはずだから、水場か烏帽子岳であろう。
 僕たちも食後烏帽子へ。
 RINちゃんも去年三伏で泊まり塩見に登った。初日は烏帽子までご一緒した。そのとき僕は眠気の抜けきらない重い体をここで横たえ、わずか10分か15分だったかもしれないが眠り込んでしまったのだった。記憶では、塩見はガスの中だった。

 きょうはさいわいにも展望がよさそうだ。

 水場との分岐を右に取り、これまた急登をあえぎ烏帽子岳へ。
 圧倒的な塩見岳がバンと聳え、南には昨年DOPPOさんと泊まった小河内岳の小屋も見えた。高山小屋への樹林帯、荒川三山、赤石はその裏に隠れていたのではなかったか。百間平が見え、聖手前の中盛丸山、小兎、兎が見えその奥に見えるのが聖だと思う。
 塩見の向こうには、南アルプス北部の山々が見える。

 埼玉フォーリーブスの皆さんと感動の再会の巻。
 先ほどの五人組の近くに座り込み、和気藹々の話に耳をそばだてつつ、「どちらから?」と尋ねると「埼玉川越です」とおっしゃる。やっぱりそうか。
 「あのさ、2000年だったか1999年だったか、薬師から立山の室堂まで縦走しませんでした?」
 「えっ? あのときのお兄さん?」

 「そう」
 「ええ〜っ」
 それから話は盛り上がった。
 スゴの頭から見たブロッケンのこと、越中沢岳から見た薬師岳の大きさ。
 「お兄さんの跡をついてったつもりなのに道がなくなって大変だったんだから」
 「それってひょっとして僕キジ撃ちに・・・」
 「どうやら倒木が道を塞いでたのね」
 写真を撮ってあげた礼に五色ヶ原でビールご馳走するわと言ったきりになっていることなどなど。話は尽きない。本当に奇遇だ。
 彼女たちはそれが第一回目だったらしく、以後年に一度はこのメンバーで遠征をしているのだと言う。
 裏銀。太郎から黒部五郎、三俣蓮華。などなど、彼女たちのしっかりとした足取りをお伺いした。
 「お兄さんはどの山が良かった?」
 「そうねえ、どれもいいけれど、黒部五郎は良かったね」
 「そうよねえ、黒部五郎はいいわよね」
 「あの時は四人でしたよね?」
 どうやらそのときお一人は腰痛で欠席されたのだと言う。 

埼玉フォーリーブスの皆さん

 テント場に戻る途中で水場へ。
 テント場へは健脚のmilionさんが先に着き、埼玉フォーリーブスのお二人もおられた。
 ビールの差し入れだった。
 「五年越しのビールね」
 半ば冗談交じりに言ったことであったが、すみませんでしたね。

三伏峠 水場と烏帽子の分岐

 そのビールをいただき、僕は宮崎の麦「赤江灘」、milionさんは宮崎の芋「無月」を飲み、それから晩御飯。

 ヘッドランプも要らないうちに寝袋にくるまって即爆睡。
 milionさんは3時過ぎに一度目が覚めたら満天の星だったとか。


8月14日(土)晴れ
 早朝起床。回りもずいぶんいそいそとしはじめた。すでに撤収済みの更地には何か空漠感が漂った。朝食を摂っているとき彼女たちが通過。
 そういえば、スゴ乗越でもそうだった。
 「お先に〜」
 「きのうはビール、すいませんね〜」

 いよいよ塩見へ登る。この三伏峠からでもかなり時間がかかる。ピストンしてここでもう一泊の予定だが、時間次第では今日中に下りてもよい。

05:25 僕たちも塩見岳へ
 テントはそのままにして荷を軽くして出発。
 約1時間で本谷山。その途中だったと思うが一瞬、富士山が見えた。
 尾根から振り返ると三伏峠の小屋が見える。
 いったん下り権右衛門山は巻きつつ登る。このあたりでフォーリーブスに追いつき抜きつ抜かれつである。
 一本取っていると、「鋸」から来たと言う青年が重たい荷物で下ってきた。

本谷山を過ぎたあたり 塩見小屋を過ぎて、岩場へ向かう

08:00 塩見小屋
 尾根に登り30分ほどで塩見小屋だったか。
 上を見ると塩見へは岩稜を登る。大丈夫かな? 行けるかな? 登れても下れるかな?
 そんな不安にかられるが、無風好天の下、数箇所三点確保でよじ登ったが、見た目より存外楽だった。
 富士山が見えるのを楽しみに登るけれど、塩見岳から蝙蝠岳、徳右衛門岳への稜線が遮っている。
 下りてくる人に「富士山見えました?」
 「バッチリです。でも先着100名様までかな? いま75名くらいだから大丈夫ですよ」
 遅くなれば雲が湧いて見えなくなるのだろう。
 天狗岩を巻きいよいよ最後の登り、もう見上げても大半が空である。

09:00 塩見岳西峰(3046.9m)

富士山

 ふう。ついに来てしまった。
 視界360度の大パノラマである。富士山もバッチリ見えた。
 こうして見るとやっぱり富士山はでかい。
 南アルプスのほぼ全容が見え、西には中央アルプスが見える。
 
 塩見岳は東峰のほうがやや高く、3052m。目と鼻の先である。僕たちは好天の下、充分すぎるほどその展望を堪能した。

仙丈、甲斐駒、北岳、間ノ岳、農鳥 (パノラマ合成)

 下りかけた頃、フォーリーブスが整然と到着。

荒川岳

 「どうするの? きょう」
 「うん、明日は渋滞かも知れんから、下りてもいいし」
 milionさんはどうやらきょう下山する腹積もりのようである。

 岩場の下りも無事通過。あとは同じ道を三伏峠に戻るだけである。

 快足のmilionさんに先に行ってもらい、僕はやや足の裏が痛くなってトボトボと樹林帯を歩く。二日かけてやっとひとつを登ったのだ。でっかい山だった。

13:20
 水場に寄りテント場へ。道中ちょくちょく食べていたからさほどお腹も空いていないからパンを齧り、コーヒーを飲む。下山用にお茶を作る。
 撤収中にフォーリーブスも戻って来られた。
 「私たちもきょう下りるわ。明日は天候が下るみたい」
 「どっちへ?」
 「塩川へ」
 「じゃあ、僕たちと一緒ですね」

本谷山にて。milionさん、お待たせ。 塩見岳東峰にて

14:45 では、下りましょう。
 足もだいぶ回復したようだ。
 トントンと小気味良く下り、尾根のほぼ中間点にある水場へ。岩から滴る水が冷たくて生き返るようだ。
 タバコを2本吸うくらいでフォーリーブスの皆さんが下りて来られた。

 尾根を下りきるとあとは沢沿いの穏やかな道であるが、さすがに足の裏が痛くなって一本。

17:45 塩川登山口
 ちょうど3時間だった。

 鹿塩の湯に入るつもりだったが、夕方のせいか入浴のみはお断りとのこと。
 そのうち汗も引いてきて、まあええかと、そのまま帰ることにした。
 さいわい渋滞もなかった。

 名古屋の高速の分岐で東名に入り、ひょっとして間違ったかもしれず、春日井でいったん下りて、勝川でもう一度高速に乗った。
 つい先日の仙丈、北岳のときも僕が運転したのだが、RINちゃんも森の音さんも、あの道もある、この道もあるとわあわあ言うから結局どれに入ったのか忘れてしまったではないか。

 日付が変わる頃帰宅。
 milionさん、お疲れさまでした。
 二日がかりでたったひとつだったけれど、ほんといい山でしたね。
 埼玉フォーリーブスの皆さんとも、きっとまたどこかでお会いしましょうね。



milionさん:南アルプスのど真ん中、塩見岳


埼玉フォーリーブスの皆さんと初めてお会いした薬師岳縦走記(Aug.11-14,2000)