新雪の釈迦ヶ岳、去り難く (Feb.27, 2005)
青空の釈迦ヶ岳山頂

■林道編
 旭から発電所を過ぎて釈迦ヶ岳登山口への林道はかなり登るから、雪のためにどこまで車で入れるかがまずポイント。その先は林道を歩かなければならない。林道歩きが2時間までなら、なんとか日のあるうちに下山できそうだ。
 DOPPOさん、「前夜泊で行こう」と。
 前日16時ごろ、D氏、タンタン氏と落ち合う。大阪南部はボタン雪が舞っていた。
 奥吉野発電所を過ぎる頃はもう暗くなっていて、林道にはうっすらと雪が積もっている。
 「どこまで行けるんやろう?」
 運転のD氏、路面の状態を見つつ、ときどきブレーキテスト。
 「まだ、行ける」
 そもそも林道を夜走るだけでも気色悪いのに、おまけに雪まで付いている。何もしないで助手席に乗っていても、かなり緊張する。お互い体を硬くして無言である。
 なんとか、中の川出合への分岐までは行けた。釈迦ヶ岳登山口まで5kmの地点。
 いったん引き返して、屋根のある避難所で幕営。

 当日の朝、雪こそ降ってはいないものの路面は歩くとずるっと滑る。「行けるところまで」と昨晩のように車で登り、中の川出合への分岐まで。林道はさらに登る。歩いて少し先まで偵察したが、雪も増えているし、随所に凍結が見られ、結局、ここから歩くことにする。

07:00 出発。
07:20 崩落箇所があり道路一面に岩が転がっていた。
08:30 釈迦ヶ岳登山口。

■不動小屋山稜線から古田の森
 この釈迦ヶ岳登山口から登るか、さらに林道を詰めて稜線上の登山口から登るかと思っていたら、不動小屋山の稜線を古田の森へ行こうと首謀者が言う。「距離的には変わらへんで〜」と。
 左へ沢を跨いで尾根を巻き、谷を越える。どうやら道らしき感じはあったが、さらに尾根を巻くうちに雪も深くなりどれが道だかわからなくなった。さいわい、古田の森への稜線の鞍部が左に見えるからおおよそそっち方向を目指して歩けばいい。しまいに涸沢を詰めることになった。
 沢の上に出るともう少しで稜線のようだ。鹿の足跡がありはするが、人が歩くには藪が邪魔をする。強引に踏み込むしかない。もう雪まみれである。
 「誰や、こんなとこ行こうゆうたんは」
 稜線に出るとたっぷりの雪の下には倒木あり、潅木あり。さらには石楠花の森である。
 「おいおい、いったいどこを歩けっちゅうねん」

不動小屋山稜線―もうすぐ古田の森への登り 「おおっ」。一段と冴える雪景色

10:00 
 歩きやすいところを探しながら、やっとこさ石楠花の森を抜けると左にぽっかりと釈迦ヶ岳が見えた。正面の高まりが古田の森。右下は真っ白な雪の尾根である。地図にある白ガレであろう。その上に見える稜線が一般ルートだ。
 さらに歩くと古田の森への登りは白一色。「おおっ」と歓声を上げる。写真を撮ろうとすると「あらあら」、カメラを途中で落としていた。「ごめんごめん」と探しに引き返すことであった。石楠花の森で枝に引っ掛けて落としていたのだった。
 この古田の森への登りがきつかった。雪も深くなり、何度も立ち止まった。今回の山行で初めて使うピッケルをぐっと刺して、両手で捕まりふうふう息をする。

古田の森、ピークへ。ふうふう言いながら。
古田の森から稜線を。かなり深い新雪。

11:20 ようやっと古田の森。
 それにしても思いのほかの雪の量である。しかも新雪。
 週末にかけての雨が、大峰では雪になっていて、それも半端ではない。
 風によって作られた素晴らしい雪の造形の中、稜線上をほぼ真っ直ぐ歩くが、ワカンでもかなり潜る。

もうすぐ千丈平

■古田の森から釈迦ヶ岳
 しんどくなってきたし、お腹も空いてきたぞ。
 木にぶら下げられた千丈平の道標が風に吹かれてカラカラと音を立てている。
 そうか、人のいないときでもこの道標はカラカラと音を立てているのか。

 ここでお昼。雪の窪みで風を避けて、まずはテルモスの熱いお茶を飲む。朝から初めての給湯である。
 パンはいくつもあるが結局一個しか食えなかった。ホワイトチョコを数個。
 すぐに体が冷える。指先が冷たくなってくる。首に巻いたタオルも、脱いだ手袋も凍ってしまった。
 「どうしようか、山頂へ行く二人をここで待っておこうか。いや、じっとしてても寒いだけだから先に下りようか。二人のことだからすぐに追いつくだろうし」などと内心、やや弱気になってしまう。
 「ザックを置いて空身で行こうや」とD氏。
 手袋の中で、グーパー、グーパーしながら歩く。知らぬ間にその冷たさも取れて、深仙宿からの登山道と合流するあたりでは日が差していた。
 「もうすぐのはずだ」

13:00 釈迦ヶ岳山頂。
 「ふう、やっと着いたぞ〜」
 青空の下、視界バッチリである。
 風雪に耐えた釈迦像は、その勲章の如くエビのシッポを纏っている。
 孔雀、仏生の大峰奥駈道の主峰群は一段と神々しい白さだ。
 「いやあ、素晴らしい」
 「ここまでこんかったら見られへんで〜」

釈迦ヶ岳山頂 左奥は孔雀
七面山 仏生ヶ岳
左下方向が深仙宿 山頂直下
 珍しく去り難い思いを残しながら山頂を後にした。
 稜線上には風による雪のオブジェが随所にあった。
 それにしても思いがけない時期のしかも深い新雪だった。
釈迦ヶ岳 深仙宿、大日岳

 下りは古田の森を過ぎ、いつもの稜線を伝う。そろそろ稜線と下の登山口との分岐が近づく辺りで一本。
 パンを食うが、ふた切れくらいでもうお腹いっぱいになってしまう。

 「DOPPOさん、もうこれで得心したんとちゃいますの?」
 「厳冬期の大峰シリーズ、満足や。これで当分、もうええな」
 「なにゆうてますのん。早春の大峰、春の大峰と続くんとちゃいますか?」
 ここ数年の間、D氏とはかなりハードな山行をご一緒させていただいた。この2月の大峰行もまた、僕にとっても新たな経験をさせてもらった。
 貴公子タンタン氏の力強さにも脱帽である。

15:30 無事、登山口に下りた。

 振り返るとはるか上にひと際白い稜線が見える。
 あそこを歩いてきたのだ。







DOPPOさん:No,434 ラッセルで釈迦ヶ岳 不動小屋山尾根から古田の森経由

タンタンさん:冬の大峰シリーズ最終章、深雪の釈迦