西鎌尾根を槍ヶ岳へ (Aug.6/8, 2005)

 東京の相棒Yと年に一回の山行を続けている。昨年は故あってブランクだったが、今年が6度目になる。
 コースは、
初日:新穂高温泉からワサビ平、小池新道を鏡平を経て双六小屋。幕営。
二日目:双六小屋から樅沢岳を経て西鎌尾根を槍ヶ岳。肩か殺生で幕営。
三日目:飛騨乗越を槍平を経て新穂高温泉へ下山。

 コースはすぐ決まったけれど、お互いの新穂高温泉までのアクセスをどうするか?
 何度かやりとりをし、ブルジョワのYは『氷壁』に出てくるらしい中崎山荘に前泊。僕は前夜発で車で行くことにした。

8月5日(金)
 夜9時過ぎに自宅を出て、近畿道、名神、東海北陸道と乗り継ぎ、01:20に「ひるがの高原SA」で仮眠。2時間ほど眠れた。トイレにユリが活けてあった。
 熱いコーヒーを飲みながら三時半に出発。高山西で下りてR158を走り、うまい具合に高山市街を通らずに新穂高温泉まですんなり行けた。途中、槍穂が見えるポイントがあった。 「おおっ」

 深山荘前の駐車場に着いたのは5時を回ったくらいか。ところが満車状態。バス乗り場まで行ってみるが、すぐそばのPは8時にならないと開かないようだ。ロープウェイ乗り場の有料駐車場は二泊三日だと僕からみれば天文学的な料金になりそう。もう一度深山荘前まで行ってみても事情は変わらない。
 係りのおじさん「昨日の11時には満車だったねえ。ここなら空いてるよ」と鍋平駐車場への地図をくれる。知ってはいたがかなり遠い。「遠いんとちゃうの?」「二、三分かな?」「車ででしょ?」「そりゃそうだけど」「でも、仕方がないわね。おおきに。行きますわ」。事実、もうそこしかないのである。
 引き返してトンネルを抜けてすぐ左へ登り、かなり走って右に鍋平の無料駐車場。
 6時にその駐車場を出て、待ち合わせの新穂高温泉バス乗り場まで歩かなければならない。着いたのは6時40分だった。
 
8月6日(土)
 Yはすでにベンチに腰掛けている。
 「よお」
 二年ぶりである。
 「朝ご飯は?」
 「まだだけど、ちょっと歩いてからにしようや」
 「OK。ほな、ジュースだけ買っとくわ」
 水は、お茶が1.4Lあるから双六まで充分かとも思うが、甘いものも欲しい。
 平坦な林道をワサビ平まで。笠の登山口には水場があったように思うが、どうやら枯れているようだ。

ワサビ平への林道

08:00 およそ一時間あまりでワサビ平。
 ここで朝食。僕は自家製の、Yは宿製のおにぎりを食う。Yは水を汲む。
 若い女の子の二人連れ。軽い荷物で足取りも軽い。彼女たちも双六らしい。(わずかに彼女たちが先に立ったが結局追いつくことはなかった)
 さて、僕たちも行くか。林道をしばらく歩き、沢に架かる橋を右に見て左からいよいよ山道に取り付く。
 天候は晴れ。暑い。汗は容赦ない。
 30分ほどで一本。登山口の橋が見える。
 「まだちょっとしか登ってへんで」
 追い抜かれることはあっても追い越すことはないゆったりしたペースである。
 結局この橋はずいぶん上からも見えていたように思う。

10:20 秩父沢。豊富な水が流れている。
 ジュースを飲み終えて、そのペットボトルに冷たい水を汲んだ。葡萄味の飴を2個、ころころと入れてゆすると、わずかながら甘い。
 「うん、甘い。こらええで」
 その飴玉も次に飲むときは小さくなっていて、より甘くなるから、さらに飲んでしまう。

秩父沢 シシウドヶ原

11:20 シシウドヶ原
 もう何回目の休みだろうか?
 いつだったか雨の中、三俣蓮華のテント場からこの道を下りたことがある。ここの大きな岩に腰掛けて立ち上がると水を含んだザックがやたら重かった記憶がよみがえった。

 もうそろそろ鏡平の手前の木陰で一本。貴重な生鮮食料、トマトを1個食う。
 重いザックのお兄さん。25kgだと言う。裏銀を船窪から針ノ木まで行き、雪渓を下る予定とのこと。

12:55 ようよう鏡平である。やや雲が出てきたか。
 昼食を摂りながらこれからさらに登る弓折岳の方を見やる。まだまだ上に見える。
 「あそこまで登るんやで」
 「うん、一時間だろう?」
 「もっとかかるんとちゃうかなぁ〜」
 相棒Yは調子が出てきたようでスタスタと登り始めた。

鏡平。池に映る槍。 槍。
弓折岳鞍部より鏡平小屋 雪田

14:50 弓折岳鞍部
 緩やかな巻道をほぼ標準タイムで、平坦な鞍部に着くと雨が降り始めた。
 「ん?」
 空はまだ明るいし、青空もある。濡れるに任せておくとほどなくやみ、鏡平側にわずかに虹が出た。

双六小屋

 あと二つ三つのアップダウンを過ぎれば、双六へ下るだけである。と、西から雷がごろごろ鳴り始めた。
 「おい、急ごう」
 Yは雷が怖いみたいだ。
 急ごうと言われても荷物は重いし、睡眠2時間だし、そうそう急げない。もし雷が近づけばハイマツ帯の中に身をかがめることにしよう。結局、雨もなく、雷もそれきりになった。
15:30 やっと双六小屋が見えた。
16:05 双六小屋着。
 テントを張り早速飲む。晩御飯はシチューだったが、半分は残してしまい、シュラフにくるまって横になると、
 「おい、寝るんか」
 「ちゃうちゃう、ちょっと目を閉じて瞑想するだけや」
 そう言いつつも即爆睡したようだ。

8月7日(日)
05:00 起床。結局ヘッドランプもいらないうちに寝てしまった。Yの話では10時間半は瞑想していたことになるらしい。
06:00 出発。好天。

早朝の双六 樅沢岳から笠方面を

 殺生では天水を買った記憶があるから槍の肩でも同様だろう。次のテント場で使う水も双六で汲んで持って上がった。
 西鎌は初めてだから楽しみだ。いつだったか、双六から笠への途中に見えた西鎌尾根は「いずれ行ってみたい」気にさせる。
 睡眠は充分に取れたけれども、樅沢岳への登りがまずきつかった。今年ももう二十数回山へ行っているけれど、体力は落ちているのではないか?
 「テント泊で縦走」にこだわっているけれど、少し工夫が必要な年齢になってきているのかもしれない。
06:50 樅沢岳
 まだ好天だが、気温が高いせいか、すぐに雲が湧く。

北鎌尾根 岩稜に咲く花

 緩やかに登り、道は岩稜になる。休みながら小ピークを幾つか越えると先丈沢乗越。ここで大休止。10時くらいだったか。トマトを食う。
 槍から重い荷物のお兄さん。
 西穂から奥穂。奥穂から大キレットを通り槍。これから裏銀への予定だとか。
 「えっ。その荷物で?」
 「なんとか来れました」
 「やるねえ」
 「西穂から奥穂まで10時間半。奥穂からはさすがに南岳までしか行けませんでした」
 「いやいや、すごいわ」
 
 さて、僕たちは最後の登りである。槍の穂先はガスで見えたり隠れたり。途中から槍の小屋が見える。あそこまでと思うといくらか元気も出てくる。ひたすら登った。
 先丈沢乗越から槍まで2時間とあるけれども、急登だが、たぶんそれほどはかからなかったと思う。一度休んだだけだった。
 正面の岩場を左に巻き右に曲がると、小屋と穂先の間に出た。

11:55 槍の小屋。
 「ふう、やっと着いたか」
 大勢の登山客だ。
 まずはテント場の確認。ありがたいことに空いていた。指定場所は8-1。正面に大喰。左に常念。右に笠が見える。
 設営後、空身で穂先に登る。しっかりと三点確保しつつ、最後の垂直のハシゴを登る。

槍の穂先と小槍 槍ヶ岳山頂

12:50 槍ヶ岳山頂。
 記録を見ると1998年以来のことである。




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