自作歌集


二上の 神の手向けし 紫陽花に 埋もるなかれ 大津と大伯

枇杷の実の 種こつこつと 夏近し

鮎餅の その柔らかさ 深更の 見知らぬ街の さまよいなれど

束の間の 温さ知りつつ 日溜りの やさしさの中 我は眠れり

青稲の 海を渡るや 暮れの風
青稲の 海やわらかに 暮れの風

・百貝岳、鎌倉岳、青根ヶ峰 (Mar.21, 2005)より

吉野山 花待ち兼ねて 分け入れば 谷間は濡れし 雪解けの水

雪解けて 吉野の山の 山肌に 苗植えるらし 杣人三人

春浅き 吉野の奥の 宝塔院 睦みし恋の 行方知らずも

父祖父母 眠る郷里の 村はずれ 温き日和りに 梅漂うか

デラシネの 故郷思える ひとときの 飛ぶ鳥哀し 西方の空


・郭公、白馬の騎士にSOSの巻―局ヶ岳から三峰山縦走(Apr.16/17, 2005)より

君恋し 局の君の 坂道に 朝明け放ち 涼風渡る

うぐいすや 幾山向こうの 三峰山

縦走路 見えるは栗ノ木 ばかりなり

とぼとぼと 汗かきべそかき 縦走路

ニセピーク 黒岩山と 書き換えたい

(白馬の騎士氏より一首)
さいわいに あらずいつかの男気に 山のむこうの 近きあなたへ

青空の 八丁平 鳥の声

切れ切れの 交信なれど ありがたく 疲労困憊 平倉の峰

もう何も することもなし 三峰山 快晴涼風 君を待つのみ

・草枕道―岳林寺から那古井館まで (May 5, 2006)より

草枕 五月の空に 続く道


・木漏れ日の 町石道に 春近し (Jan.15, 2006)より

寒気緩み 町石道に 熟柿落つ

うんと言わぬ そのがんこさが 取り柄なの? 付かず離れず 君の面影

木漏れ日の 町石道に 春近し

亡き祖母の 鈴の音涼し 遍路道 極楽浄土へ 我も参らん


母逝きし 郷里の森は 緑濃く

雨具干し お湯割り一献 虫の秋

やさしさに 胸キュンのまま 月夜道

「また来いよ」米酒持たせ うろこ雲

「ついそこで 摘んできたよ」と野菊かな

名月や 金剛葛城 かすみけり
名月や ぐんぐん登りて 時静か

夜勤日が 週一回の 休肝日
週一の 夜勤休肝 秋涼し

「また来ます」 ヘルパー帰りて 秋静か

三日月の 横に明星 雲細く

無と書いて 世情に昏し 花一輪
無でもよし 世情彼方に 秋日落つ

まだ来るか 遮断器上がらず 鰯雲

校門に 向かう歩道に 秋の花

秋寒の 薄暮に黒き 鳥の群れ

田の畦に 赤赤と炎ゆ 曼珠沙華
緑田の 畦赤赤と 曼珠沙華

各停の 通勤電車や 秋の暮れ
秋暮れて 年の残りも わずかなり

重陽や 山に登りし 杜牧かな
重陽や 杜甫も杜牧も 登高す
重陽や 数多の詩人 登高す

小春日に 亡き母郷里で 笑いおり
秋日和 亡き母郷里で 笑いおり

画々の 街も秋空 覆いけり

寒緩み 両手に下げし 一升瓶

穏やかな 陽に向き走り 初仕事

願い事 ひとつ増えたり 初詣

オリオンに 老いの坂道 見られけり

新年や 金の縁あり 朝の雲

二回目で うまくできたよ りんごジャム 君の娘に ホワイトデー



連載小説「早苗」