『★期間限定★小料理屋 こふゆ』における、ton公の失恋物語


 ゆらゆらと そよぐ木の葉と 木漏れ日に ひとつの恋の 終止符を知る

 おかみのこふゆはなかなか泊めてくれへんし、お客のyuraちゃんにはけんもほろろに振られてしまう。しまいに、かし婆さんを、生駒霊園に行こか? 石材屋さんに墓石見に行こか? と誘うけれど、これも断られてしまう。
 そんなモテないton公に、初めてのお客sinobu_sinobazuさんが歌を贈る。

     sinobuさん
 君の家にも 吾の家にも 小夜時雨
              物や思うと 独り問う酒


 傷心の日々を送っていたton公はお会いしたこともない方に歌を贈られドキドキしてしまう。それでもton公はyuraちゃんに振られた轍を踏むまいと下手な歌作りに励むのであった。

     ton公
 小夜時雨 君住む街の はるけさに この雲のごと 心騒げり

 以下は、はかなくも短く、かつ非常にせつない、sinobu_sinobazuさんとton公との歌のやりとりである。

     sinobuさん
  今宵また 春の目覚めの しのぶ雨
              小雪となるか 君住む町は

    ton公
 小雪舞う 昏き地平に 寒椿 如何にと問うか その凛々しさで

    sinobuさん
 しのぶとて 生きしはざまの 紅き花
              如何にか分かむ うつつまぼろし


    ton公
 しのびつつ ふと漂える 梅の香に ほのかに見えし 君の面影

    sinobuさん
 君の手か それとも東風の いたづらか
              ひと枝の梅は ゆらりしなりて


    ton公
 夢うつつ 花より落ちし ひとしづく その花びらに 唇寄せり

    sinobuさん
 小さ虫 氷雨の夜は この花の
              うてなに眠れ 吾もやどなし


    ton公
 はてもなき 氷雨の夜の さすらいは 熱き泉の 君を偲びつ


     ton公
 交わりし 光芒一閃 忘れんと 君の眠りは 深くありしか

    sinobuさん
 うつしみの 春なき冬の 忍び草
              雪に埋まれよ 夢のあとさき



 かくして、ton公はまたもや振られてしまったのであった。
 この歌集は、もう二度と逢うこともないであろうsinobuさんとの短くも熱く燃えたton公の恋物語を長く記憶に留めておこうと作成したものである。


 以下は「こふゆ」の伝言帳に記された句からの抜粋である。
     妹の蘭子作
 なぜ逢えぬ 逢坂道は 時雨坂

     ton公、はじめて奥のこたつでおかみと差し向かいで飲む
 春を待つ たった二人に 夜が更けて



【こふゆさんのコメント】

こふゆです(^^)
みなさん、どうも「こふゆ」をご贔屓にしてくださいまして
ありがとうございました。
実は知り合いばっかりなんだけど「ちょっと嘘」という世界、
一度やってみたかったのです。
そんなノリにどこまでみなさんが付いてきてくださるか
分からなかったのですけれど、ともかく始めてしまいました。

来店客は実のところ誰か想像が付く方も多かったのですが、
出来るだけ誰かを知らないフリをしました。
そして役名と書き込みの内容のみでいろいろと絡ませていただきました。

実のところ「しのぶ」さんは、本当は自分で演じたくなかったのです。
誰か男性が演じてでも振られっぱなしのtonさんを口説いてくれないかなー
と待ってましたがどうも現れそうにないので、こんなに美味しい(失礼)
ネタがあるのにもったいない、という気持ちで「しのぶ」を自分で作りました。
途中でリアルなtonさんが悩んでいるようなので、最後のほうだけですが、
tonさんには「しのぶ」の正体を伝えました。
でもやはりそれからはリアルなtonさんが頭の中に出てきてしまい、
「しのぶ」を演じるのが難しかったです(またまた失礼)

ストーリーメーカーとして、カシ婆とsekiやんが素晴らしく
この二名が居なければもっとこぢんまりした話になっていたでしょう。
どんな話の展開になるのか想像つかず、やりがいがありました。
sekiやんも「しのぶ」の出現には悩まれたようなのですが、
最後まで嘘をついてしまい、ちょっと申し訳なかったです。
dさんは実は、あまり店に訪れてくれないこふゆの憧れの人として
接していました。てなことをログが消えてから言う私(笑)

そしてrekiさん、gakinchoさん、そのほか、たくさんの方が
「こふゆ」に訪れてくださり、一緒にカウンターに座り、
コタツで寝ころんだ、そんな共有感が持てた不思議な空間が
出来ていた気がします。ほんとうに楽しくありがとうございました。

「こふゆ」「しのぶ」はもう出てくることはないでしょう。
これからは元の私としてまた末永くお付き合いくださいませm(_)m

                      こふゆ=しのぶ



【ton公の独り言】

 二月にはいると『こふゆ』は予告どおり店を閉じ、末日にはもう更地になっていた。
 生ぬるい風を受けながら、僕はフェンス越しにその跡地の前にたたずんでいた。
 おかみが、sekiやんが、yuraちゃんが、Dやんが、enchanが、tohruさんがあのカウンターで飲んでいる姿がいまでも目に浮かぶ。そして、しのぶさんが。
 あの短くも切ない日々。もう二度と帰ってこない日々。
 僕は飲み干したジュースの缶をポイとフェンスの中に投げ込み、背を丸めたまま立ち去った。

 なあんて。(^o^)
 『こふゆ』では掲示板にとどまらず面白いドラマを作りたかった。いろいろと考えてはみるのだが、おかみ、sekiやん、それぞれに思惑があり、なかなか自分の思うようには展開しないものだ。
 でも、そこに面白さがあった。だから、けっこう緊張しながら楽しんだと言ってよい。その展開の中で、どうやら僕は振られ役に徹したほうがよさそうだと思いそれなりに状況を作ったつもりだったのだが、そこにひょいっとしのぶさんが現れ、歌を贈っていただいた。
 「どきっ」とした。まず誰だかわからないからどのように応対したものかとまどった。また、歌なんてめったに作ったことがないから返歌を作るのにも時間がかかった。

 何度かのやりとりのあと、どうやらおかみの知り合いらしいことを教えてもらった。
 僕は相手が誰であるかはかまわないけれど、いずれ逢いたい、触れたい、後朝の別れなども歌のなかで表現することになるだろうからそれを了解してもらえればそれでいいと返事をした。

 その後、歌そのもののモチーフを維持することを条件に、しのぶさんの正体を教えてもらった。
 ひっくりかえるほど大笑いしてしまったけれど、じつは困った。
 どうしても歌を作るとき、実体としてのしのぶさんが現れてくるからだ。(^o^)

 立春の頃閉めると聞いていたのでいささか先を急いでしまったけれど、歌作りの稽古にはなったと思う。歌が出来る瞬間、厳密に言えば歌の中の言葉が生まれる瞬間ってあるんだなあと思った。
 日常、歌を作る心境にはなかなかなれないけれど、とても貴重な経験をさせていただいた。

 ところで、店を閉じた後、しろやしおさんも僕に歌を贈られた。僕には心当たりがありその方だとばっかり思っていて、後にあなたでしょう?とメールを書いたが、「いや、時々覗いたことはあるけれど、あそこに書いたことはない」と返事をもらった。
 だから、結局、しろやしおさんは誰だかわからないままである。

 
追記
 先日(3月13日)、山の集まりの飲み会があった。僕は二度目の参加である。四日市からRINさん、TOHRUさんご夫婦も来ておられて、「よお、久しぶりぃ」なあんて挨拶をしたあと、TOHRUさんが隣に座っていろいろ話しているうちに、せきやんやHAMAさんを交えて『こふゆ』のことが話題になった。
 「結局、しろやしおさんが誰だか未だにわからへんねん」

 しろやしおさんからいただいた二首をここで紹介する。一首目は、かなり秀逸だと思った。

    しろやしおさん
 さみしさに 包まれたまま 君に会い はにかんだ顔に 檸檬の香り

    ton公
 それぞれの 寒さ耐へつつ ひとときの 君の笑顔に 新しき日々

    しろやしおさん
 まだ明けぬ 心の空の 冬模様 貴方に出会う 春を待つ

    ton公
 菜の花の 香も届かぬか 暗き部屋 暗き想ひを 置き去りにして

 
 まさか、しろやしおさんがTOHRUさんだったとは…。

 「なんやあ、TOHRUさんやったんかぁ…」


自作歌集