黒戸尾根から甲斐駒、鳳凰三山 (Jul.22/25. 2005)

二日目
7月23日(土)七丈小屋から甲斐駒、仙水峠、早川小屋。

05:00 起床。天候はまずまずのように思えた。
 左腕を虫に咬まれたようで痒い痒い。
 ラーメンを食べ、水の残量を見れば、汲みに行く必要はなさそうだ。
06:00 さて、いよいよ甲斐駒だ。
 よく眠れたから少しは身体も切れるかと思ったが、登りはさすがにきつい。やっぱり体力が落ちているのかもしれない。
07:00 8合目の御来迎場の手前でくたばっていると小屋で話をした三人さんに追い抜かれた。きょうの早川小屋まで地図にある標準タイムで9時間。まあ、日暮れまでには着けるだろう。

 鎖場があった。上は岩が塞いでいて右に身体をずらして岩に足をかけてよじ登らなければならない。そうしようとするとザックが岩に当る。二度試してみるが同じこと。あらあら困った。
 「うーん、万事休すか?」
 いったん戻って岩場に沿った枯れ木を伝おうかとも思ったがゆらゆら揺れている。落ちたら終わりだ。
 もう一度岩場に取り付いて鎖を持ち、右の足を置くところに膝をつき、鎖にたよりながら身体も右に寄せながらようよう上へ抜けることができた。「ふう」
 岩場が続くが、足がかりはあるから比較的登りやすい。むしろ下りが難しそうだ。
 そうこうするうちにガスに包まれた。行場と思える岩場を過ぎ、もうそろそろ山頂かと思える頃先ほどの三人さんが下ってくる。
 「うん、もうそこだから」
 「下りの方が大変みたいよ。気を付けて」
 「そうだねえ・・・。どうやってあそこ通ろうか」

行場だろうか? 甲斐駒山頂

08:40−08:45 甲斐駒山頂。
 浅い鞍部を挟んでふたつピークがあった。どうやら向こうが少し高そうだ。ガスに包まれ展望はなかったが、ようよう二日がかりで山頂までたどり着いた。
 
 鞍部に下り分岐を駒津峰へ。ザレザレの道を下る。途中、摩利支天の分岐があったはずだが気がつかなかった。駒津峰側からの登山者が三々五々。大パーティもあった。「はい、どうぞ〜」なんて道を譲ると「おいおい、どこが切れ目やねん」と言うほど待たされた。
 樹林帯に入りふたたび登り返す。
10:25 駒津峰。
 ここから仙水峠へ一気に500m下る。
 甲斐駒もなかなかやっかいな山だ。

仙水峠から栗沢山へ。雨になり写真もなく、記憶もなく、ひたすら登った。

11:35 仙水峠。
 大休止。ここからまた栗沢山まで500m登り返さないといけないのだ。「やれやれ」
 単独の方が下りてきて人懐こく「やあ」と。おそらく七丈小屋でお見かけしたのかもしれない。
 「もう下りるだけです」
 一時間もあれば北沢峠へ下りれる。
 トマトを食べ、岩に腰掛けているともう一人。彼も下りると言う。
 僕も一瞬誘惑に駆られる。車の回収の段取りを考えてしまう。これもかなり時間がかかりそう。しょうがない、行くか。
 登りかけると大粒の雨になった。
 引き返して木陰で雨具を着ける。「やれやれ」
 岩場をトントンと登り樹林帯に入る。ボトボトと濡れながらいったい何を考えていたのか、この間ほとんど記憶がない。雨はほどなくやんだのか樹林帯を抜けたときは曇りだった。
13:50 栗沢山。
 岩場の尾根道を歩く。雷鳥がいた。

栗沢山からアサヨ峰への岩稜 雷鳥がいた。
アサヨ峰 17:30 ふと気がなごむ。

15:40 アサヨ峰。
 標準タイムからは大幅に遅れているから、あんまり当てにはできないけれど、あと2時間。早川小屋には、なんとか日暮れまでには着けるかな?
 ミヨシノ頭をいつ通過したのかも記憶がない。樹林帯に入ってまたもや雨になった。
 とぼとぼと歩くしかない。歩けば必ず着く。
 2001年の、広河原から北岳、間ノ岳、農鳥。
 2003年の、三伏峠から悪沢、赤石、聖。光から聖。
 2004年の、北沢峠から仙丈、北岳。塩川から三伏峠、塩見。
 今回が6度目の南アルプスになるけれど、南アルプスには苦行のイメージが付き纏う。
 ひたすら長距離をしかもひとつひとつをしっかり登りその分下り、さらに登り、下りを繰り返す。一方で北アルプスに比べて森林限界が高いせいか、大峰山系の延長線上を歩いているような気にもなり親近感もあるのだ。
 そうは言いつつもかなり歩いたがまだ着かない。虫に咬まれた左腕が熱を持っている。かなり腫れてきた。木立の向こうの白いものが小屋に見える。幻視である。もう山なんてやめようかとさえ思ってしまう。
 黄色い小さな花が咲いていた。アサヨ峰から早川小屋までの間に撮った唯一の写真だ。
 樹林帯の中をぐんぐん下りながらようよう人の声が聞こえた。小屋か?
 今度は間違いない。やっと着いたか?
18:15 早川小屋。
 「ふう」
 小屋の庇に入りザックを下ろす。12時間以上かかってしまった。
 「七丈から来たぞ〜」と訊かれもしないのに言いたくなってしまう。
 受付のお姉さんが冷たい麦茶を一杯出してくれた。
 「ふう、生き返るわ」
 その気遣いがうれしい。
 「なになに? 七丈から? あたしたちもそうよ」
 と小屋の中からおばさんが二人。
 「あたしたち4時に着いたわよ」
 「はや〜。途中、ところどころ飛んで来たんとちゃうのぉ?」
 「4時に出たけどね」

 雨次第では小屋に素泊まりも考えていたけれどどうやら満杯状態だし、やんでもいたからテントを張ることにする。
 記帳すると、「しばらく中で休まれてもいいですよ」
 なんてやさしいお姉さんなんだ。

 テントを張り、水場へ。ありがたいことにここもふんだんにある。
 お湯をこぼしたり、雨がザックにしみこんだりでテントの中もなんだか濡れている。
 酒を飲み、ご飯を食べ、シュラフに包まったが、シュラフも濡れていて、だいいち着ているものが汗や雨で濡れている。寝付くまで歯ががたがた言うほど寒かった。



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