天和山日和―発電所尾根 (Mar.2, 2008)
コタツで熟睡。息子がやさしく肩をゆする。
「ん?」
まだ二時頃だ。コーヒーを飲みネットで遊んでいると明け方に気だるくなってきた。空は雲ひとつない。
「天和山日和じゃないか」
朝ごはんも食べずに外へ。フロントガラスには霜が降りている。放射冷却現象。
「うんうん、きょうは好天だ」
ごしごしこすって出発。
過去何度かこの時期行っているけれど、第一回目と同じように発電所側の尾根から登ってみよう。
ただ、その時は道がわからず「たぶん」と思って取り付いたのである。なんとか行けはしたものの、巻き道から谷沿いに歩いて最後は急斜面をガリガリと登って尾根に取り付いた。
地図を見るときれいな尾根である。尾根通しで行けるのではないか。尾根を伝えば、第一回目にどこで間違えたかもわかるだろう。
08:15
和田に着くと車がもう一台。僕と同様に山仕度を始めた。彼らもまた天和山だろう。とくに言葉を交わすことも無く、若干早く出て、発電所側の尾根に向かう。
「ん?」
09:00 藪藪してはいるが道はある。 |
まともな道を登った記憶なのだが、やたら急斜面をがりがりと登る羽目になった。もう少し奥だったか。尾根まで登ればなんとかなるだろうとあっちこっちと歩きやすいところを選びつつ登るとまともな道に合流。「やっぱりそうか」
鉄塔を過ぎると藪藪してはいるけれど歩けなくはない。道も穏やか。
ぐんと盛り上がった尾根の左を巻くように道がある。
「そうそう、これを左に行ったのだ」
今回は尾根を忠実に歩こう。やや右にも踏跡程度の道があった。それに従うと藪をくぐって尾根の膨らみへ登る踏跡らしきものもあった。
迷わず藪をくぐる。
尾根は広くより高い方へと問題なく歩けるのである。こちらからの方が楽なんじゃないかと思えるほどである。
徐々に雪が付き始めたが、「より高い方へ尾根を外さずに」を原則に登るとさらにぐんと高くなる尾根を右に巻くような道らしい。
「そうか、この高まりを巻いて、きっと向こうの鞍部で合流するのだろう」
そう思って右へ道に沿って巻くと尾根はさらに高くに見え、道は平坦、やや下っているようにも思われた。
「こらあかん、引き返そう」
適当なところで斜面を尾根に向かって登る。
10:15 地面凍結。アイゼンを履く。 |
雪は日陰には浅く残り、吹きさらしの尾根は凍っていた。急登である。ここでアイゼンを履いた。
正面のとんがりはなにやらクラらしい。
左へ巻いて再び尾根に乗る。
と、またもやクラが立ちはだかる。岩が凍り付いている。左は急斜面の雪である。右はストンと切れている。
さあ、どうしたものか。あちこちつかまりながらバランスを崩さないよう慎重になる。アイゼンを履いてはいるが岩の上であるから滑らないとも限らない。
ようよう上へ抜けるとまたもや同じくクラが立ちはだかった。しかも急な登りである。
「これは登れても下りれんぞ」
この二つのクラは登りだったからまだ登れたようなものだが、この先、下りにあったらどうしよう? 引き返すかたっぷりの雪の急斜面をトラバースするしかない。
ほどなく見覚えのある地点に来た。
「そうそう、谷からガリガリとこの尾根まで登ったのだった。
谷を挟んで右に見えるピークがおそらく天和山ではないだろうか。
この尾根は天和山から栃尾山側へ浅い鞍部を越えたピークにつながっている。
だいぶ近づいてきたが、ここからが長かったのだ。
10:50 右奥が天和山。もう近いのだが・・・ | 11:15 栃尾側のピーク直下。左へ巻いた。 |
痩せ尾根の一方がストンと切れている。吹き溜まった雪がその尾根に分厚い。雪庇ではないが、下手にその上を歩いて落ちたらアウトだ。
斜面側の尾根よりやや下を歩く。それでも足を取られるほどの雪である。思い返すとワカンに履き替えれば幾分は良かったのだろうが、山頂はもうすぐだ。
雪面まで足が上がらない。前へ進もうにも雪が崩れるだけである。足掻くとはこのことか。分速1m状態で足掻きもがきつつようよう手前のピークの下まで来た。栃尾側の稜線への巻き道は雪に埋もれてどこだかわからない。いっそピークまで直登しかけたが、北斜面の急登にたっぷりの雪である。ちっとも進まない。
ピークまで標高差20mあるかないかだったと思うが、いかんともしがたく、左の稜線へトラバース。足元は潜るけれど平行に歩ける。
ようよう陽の当たる稜線へ。「ふう」
陽が当たる分、雪は解けて浅くなっていた。ほどなく天和山手前のピーク。
ここからいったん浅い鞍部へ下り、天和山へ登り返すのだが、これがまた厄介だった。
先ほども書いたように右側がストンと切れて道はその上にあるのだが、たっぷりの雪。怖くて歩けない。安全のためにやや下の斜面側を歩くのだが藪の上である。足を取られながら、藪を抜け天和山への登りになると、またもや雪面まで足が上がらない。分速1m状態。大展望台は目前なのに。仕方なく両手をついて四つ足歩行。
「そうか、両手にも体重をかけてやれば体重は分散される。比較的潜らなくてすむ。そうゆうことか」
直立歩行の人間は雪の中を歩くようにはできていないのだ。まるで熊か猪のように四つ足で難所をクリアして天和山直下の大展望台へ。
12:05 「ふう、四時間かかったぞ」
神仙平 |
左奥:八剣 右:明星ヶ岳 |
引き返すのはとくにクラを下るのは危険だ。鉄塔尾根を下るのが無難だ。
陽の当たる草付きは雪がなく、シートを出して昼食。といっても助六寿司とテルモスのお湯だけだが。
やや気だるい体で途中何度かふくらはぎが攣りかけたけれども、ここまで来れてこの大展望に恵まれたのだ。
臼のような神仙平には雪が詰まっている。弥山八剣はひときわ白い。神は神仙平からこの天和山に飛翔し心行くまでこの大峰の絶景を堪能していることだろう。
背後で人声が聞こえる。朝見かけた彼らかもしれない。だが結局ここまでは来なかった。
さあ、僕も下りよう。
天和山山頂。暖かくザラメ状だったが今までにないほどの雪。 トレースのない山頂付近。この日はおそらく僕だけが歩いた。 |
12:35 天和山ピーク。
今までにない雪の深さだった。気温も上がり、アイゼンは高下駄状態。何度もピッケルで叩きながらトレースのない雪の上を歩く。次のピークに踏跡があった。
「そうか、ここまで来て戻られたのか」
もちろん、ここからでも絶景だ。
トレースにしたがいさくさく下る。
鉄塔尾根をアイゼンを効かせて下る。振り返るととんでもないほどの急登だ。
雪さえなければ、発電所尾根の方が楽なようにも思えるけれど。
14:45 無事下山。