アー (Oct.12/13, 2002)


10月12日(土)

 大阪駅で白鳥組と合流し、堅田駅のホームで泉州へべれけ隊と、そして改札を抜けバス停でピッケルさんと合流。今回のパーティはこの6人である。
 バス停にはすでに多くの登山客がいて、坊村直通が先に一台増発された。僕たちは登山口としてはふたつ手前の平からだから定時のバスに乗る。平から折立山、アラキ峠を経て権現山、小女郎峠、蓬莱山、打見山へと向かう。テント場、道中運ぶ水の量、明日の予定などなどを考えると、出来れば今日中に金糞峠まで行っておきたい。でも、それは打見山に何時に着くかによるのだから、そこで決めればよい。
 平で下りると地元のおばさんが朝市を出していた。それぞれが食料の補給をする。
 「晩は鍋やから菊菜買うとこか?」
 聞けば、白鳥組も泉州へべれけ隊も鍋だという。
 「僕はアルファ米に麻婆春雨やけど」
 「そんなんおいとき。一緒に鍋突ついたらええやん」
 
 バス道を戻り、左の林道に入り、道標に従い山道へ。
 いつもだと登りはじめて重い体が山道に慣れるまでがもっともきついのに、どうゆうわけか今日はわりと軽快だ。いま僕は免許剥奪中の身の上だから仕事中は電車バスで移動している。車に比してよく歩く。そのせいかもしれない。
 バスの中では好天だったけれど、雲がすこし湧いてきたのかその雲が時々太陽を隠す。
 「曇ってきたわぁ・・・」
 HAMAさんはここしばらく空模様に敏感なようである。
 「また降るんとちゃうかなぁ・・・」
 でも、たぶんだけれど、今回は大丈夫だろう。
 一本取って振り返るとhiroさんがおにぎりを食べている。
 「なんやあ、hiroさん、腹へってたんかいなぁ」
 おまけに缶ビールを4つもザックに入れているのだとか。
 M氏と言えばザックの左右にペットボトルを外付けしているが、そのひとつは焼酎だという。間違えて道中飲まないようにね。
 
 地図にも、HAMAさんからもらったプリントアウトにも、折立山、アラキ峠を経て権現山とあるけれども、予定の所要時間を過ぎてもなかなか折立山にたどりつかない。速度を5%アップしないといけないんだろうか、内心そんなことを思っていた。
 背丈ほどの熊笹をかき分けるころ、ようやく空が開けてきた。
 「もうすぐでっせ」
 やっとたどり着いた山頂には「権現山」と書いてあった。
 「えっ? 折立山とちゃうの?」
 ピッケルさんが地図を見ながら、
 「折立山はピークを通りませんね。登山道から10分となってます」
 なるほど、同じ昭文社の地図だけれど版が違っていて、ピッケルさんのにはそうなっている。僕のもじっと見ればたしかにピークを通っていない。
 「でも、アラキ峠は通ったんかなぁ? 道標ありましたっけ?」
 先着のおばさんが、
 「ありましたよ。草に隠れて見えにくかったけど」
 「なんやあ、そうやったんかぁ」
 改めて地図にある標準タイムを見ると、平からこの権現山まで1時間50分となっているから、僕たちは20分から30分くらい早く着いたことになる。
 「なんやぁ、めっちゃ得した気分やねぇ」
 ひと山儲かるとはこのことか。

 モリ姉さんが先ほど買ったおはぎをみんなに分けてくれる。ほおばりながら眼下に見える琵琶湖を眺める。
 ここからは尾根道になり、足元にはリンドウが咲いている。
 HAMAさんが、
 「郭チン、これがリンドウやでぇ。覚えときやぁ」
 「あちゃー」、今日も8月の伊吹に引き続き頭が痛くなりそうだ。
 林を抜けると低い笹の中を歩く。好天の下、穏やかな起伏の稜線漫歩である。かつて蓬莱から小女郎峠を眺めたときのあの稜線をいま歩いているのだ。
 ホッケ山の手前あたりでヘビが前を横切った。70cmから80cmくらいだったか、こげ茶にクリーム色の亀甲紋みたいな模様があった。胴体は結構太い。
 「ヘビや〜。怖い〜」
  
 小女郎峠から左へすぐのところに小女郎ヶ池。ここでお昼にする。
 ピッケルさんがマットを出す。モリ姉さんが正座する。HAMAさんも大きなお尻をよっこらしょ。当のピッケルさんはと言えば、遠慮がちにマットに半分だけお尻を乗せている。

 冬、panaちゃんがこの池の上に乗っている写真があった。氷が割れたら溺れてしまうのではないかと思ったけれど、池は想像以上に浅かった。言わば湿地帯に水が溜まっている状態である。きっと雨の量でこの池は広くなったり狭くなったりするのだろう。
 高原のような周囲の起伏が池に映っている。
 「蓬莱山がきれいに映るんよ」とHAMAさん。ぐるっと回り込むとたしかに。

 お昼を終えほどなく蓬莱山頂へ。数年ぶりの蓬莱山頂だ。いくぶん様子が異なっているようにも思えたがどっちにしてもよく覚えていない。僕はこの時点でついに比良全山縦走を完成した。
 草付きの坂道を鞍部へ下り打見山へと登り返す。この時間ならばなんとか金糞峠まで行けそうだ。行ってしまおう、と言うことになった。
 したがって水は道中の飲み水だけでいい。
 延命水まで下りてもよかったが、売店でペットボトルを買った。
 モリ姉さんが、コーラを持っている。
 「お茶のボタンを押したのにコーラが出てきたわ」
 係りの人が押してみるとやっぱりコーラがでてきた。
 「どないなってんねん」

 「さあ、行きましょう」
 打見山からキャンプ場を抜けて木戸峠へのショートカットを通り山道に戻る。ここからは再び森の尾根道である。比良岳で一本。
 葛川越へぐっと下る。かすかに記憶があった。かつてここで昼ご飯を食べた。でも、道そのものはほとんど覚えていない。急登をあえぎ烏谷山へ。ここもピークを踏まない。登山道の最高地点を過ぎたあたりで一本。HAMAさんと明日の打ち合わせ。阿吽で即決。
 南比良峠から堂満の根っこを巻いて金糞峠へ。途中でもう一本。ここまでくればもうあとわずかだ。僕たちは暮れるにはもうすこし間がありそうな黄色い秋の陽射しに包まれた。
 横一列に腰掛けて取り止めのない話が続く。
 hi「電線にスズメが・・・、みたいやね」
 HA「爽健美茶のペットボトル、なんかかっこいいなぁ」
 郭「僕の爽健美茶、中は麦茶やで」
 HA「はあ…。???」
 
 金糞峠のテン場にはすでにひと張り。さいわい奥の森の中に張ってあったので手前の広いところに三つとも張ることができた。
 水は八雲ヶ原側からと、金糞峠からの沢が合流している。八雲ヶ原のは豊富な水量だけれど川底の石が黒く苔がついていた。金糞峠からのは細いけれど僕にはこちらの方がきれいなように思えた。
 腰掛け用の石を集めて所帯道具をそばに置いて、車座になってまずはビールで乾杯。白鳥、泉州へべれけは鍋の準備を。僕は豆をポリポリ齧りながらピッケルさん持参のワインをいただく。それから焼酎。そろそろ鍋ができる。ポン酢やだしでそれぞれをいただく。
 仕込みにもずいぶん時間がかかったことだろう。

 そろそろ酔いも回り、お腹もいっぱいになった頃、
 「さむなってきたし、あそこで焚き火せえへん」
 そう言ったのはhiroさんではなかったか。
 新聞紙と杉の枯れ葉で火を点け、そこに枯れ枝を重ね、僕たちは長い間あれやこれやで盛り上がった。
 それにしてもピッケルさん、キャンプサイトでの身のこなしぶりはなかなか手慣れている。心強い仲間がまたひとり増えた。
 「朝五時起床。六時出発やから」
 そう言ってシュラフにくるまったものの、「郭公さん、もう六時だけど」とピッケルさんに起こされてしまった。


10月13日(日)

 朝食のあとテントはそのままにして空身で八雲ヶ原へ。平坦な散策道で空身のせいか快適である。湿原の木道を通ってヒュッテへ。缶ビールをウエストポーチに入れイブルキのコバから武奈ヶ岳山頂。
 ビールで乾杯。
 何枚か写すうちに、HAMAさん「みんなで撮らへん?」
 山頂には僕たちのほかにもう一人。「いいですよ〜、撮りましょか?」
 なかなか察しのいいお兄さんだった。「じゃあ、これで」と、HAMAさんも、milionさんも、ピッケルさんもそれぞれがカメラを渡す。お兄さん、気持ち良く撮ってくれた。地元の人らしいがこれから山を始めようかと思っているとのこと。きょうはこれから帰って仕事だそうである。自営業だとおっしゃっていた。

 ススキの西南稜を通ってワサビ峠へ。谷へ下りて一服。一服と言っても空身だから、よっこらしょとザックを下ろす動作もなければそれに腰掛ける動作もなく、ただ突っ立っているだけだから何とも奇妙である。中峠側から下りて来た人が不思議な顔をして通りすぎて行った。
 中峠からヨキトウゲ谷を下る頃から大勢の登山者とすれ違った。
 11時前にテント場に戻り、昼ご飯。
 例によって車座になり食べ終えて後片付けをしている頃だったか、hiroさんが何か話していると隣りのM氏、まったく脈絡のない話を突然に。
 郭「milionさんは、ほんまにひとの話を聞いてへんね」
 hi「そやろぉ、娘からもそう言われてるの」
 mi「お前もたいがいそやで」
 二人の会話はいままでも車の中とかで聞いているけれども、よくもまあこれまで連れ添ってきたものだと感心するくらいマイウェイな人たちなのである。このご夫婦にはマイウェイズの称号を進呈しよう。でも、テン泊は二人一緒でないとだめみたいですね。
 モリ姉さんが言う。
 「世の中に二つと同じ夫婦はいないって言うものね」

 下りは金糞峠から青ガレ、大山口と下った。途中で隠れ滝を見た。
 駅前のおでんやさんで反省会。
 好天の下をきのうはしっかり歩いたし、きょうは空身で快適な山歩き。テント場もなかなかよかったと思う。
 京都駅でピッケルさんが下車、大阪駅で白鳥組と、新今宮でマイウェイズと別れて、今回の比良比良ツアーは幕を閉じた。


ピッケルさん:比良山南部縦走
milionさん:比良の秋を縦走
HAMAさん:比良山系南部縦走

郭公の比良縦走記
四十の手習い比良縦走記 (96年)
蛇谷ヶ峰から武奈ヶ岳、坊村 (Jun1/2,2002)