(二)石上神宮のフツノミタマの年代について―資料編

 本章では、おもに今尾文昭「素環頭鉄刀考」を参考にしつつ、その年代を検討する。
 まず資料を提示し、考察は次章とする。(とくにことわりのないものは今尾論文から引用転載した。それ以外についてはその都度注記する)

 表1は弥生時代から古墳時代前期、弥生終末から古墳時代前期出土の素環頭大刀の長さと出土遺跡および網かけは柄の長さを示している。40cm未満では汐井掛遺跡、立岩遺跡が頻出するように遠賀川周辺に厚く出土していること、40cmを超える長刀は前原、藤崎、佐賀の二塚山、三津永田遺跡、対馬のトウトゴ山遺跡と言うように福岡西部から佐賀、対馬にかけて出土している。また、柄の長さは刀身の長さに関わらず、共通しておよそ10cm前後である。これが弥生時代の特徴である。なお朝田は山口市。杉谷は富山市であるが、割竹形木棺、土壙、方形周溝墓、共伴したコバルトブルーのガラス小玉などから北部九州の影響と考えられている。

 表2は古墳時代出土の素環頭大刀である。出土は北部九州に限らず西日本に広がり、総じて刀身が長くなり、柄は弥生期の片手で持つ長さから両手で持てる長さに伸びていることに注意しておきたい。
 では、じっさいに素環頭大刀をいくつか見てみよう。


 まず、弥生時代。(図1)

(図1)弥生時代の素環頭大刀
1. 長崎トウトゴ山1号箱式石棺墓 78.7cm 2. 佐賀横田遺跡 61.8cm
3. 福岡藤崎6号方形周溝墓 56.6cm 4. 佐賀二塚山36号土壙墓 54.6cm
5. 佐賀三津永田104号甕棺墓 51.25cm 6. 福岡丸尾台遺跡 44.5cm
7. 佐賀二塚山52号土壙墓 44cm 8. 福岡郷屋遺跡 39.7cm



 次に、弥生終末から古墳時代初頭期の平原1号墓。(図2)
(資料は、伊都国歴史博物館のサイトより)リンク切れ http://www.city.maebaru.fukuoka.jp/city/bunka/ito-museum/deji-5.htm

(図2)平原1号墓出土素環頭大刀



 次にホケノ山古墳。(図3)下:素環頭大刀、上:直刀。(資料は『ホケノ山古墳の研究』)

(図3)ホケノヤマ古墳出土素環頭大刀 上:直刀 下:素環頭大刀


 次に古墳時代前期。(図4)

(図4)古墳時代前期の素環頭大刀
1,2,3. 福岡一貴山銚子塚古墳 84.5cm 79.5cm 69cm 4. 島根大成古墳 89.1cm
5. 奈良谷畑古墳 125.3cm 6. 奈良池ノ内7号墳 77.5cm
7. 京都椿井大塚山古墳 93cm 8. 京都岩滝丸山古墳 70cm
9. 愛知白山藪古墳 70cm 10. 福島会津大塚山古墳南棺 120cm



 次に東大寺山古墳。(図5)(資料は第180回トークサンコーカン資料。山内紀嗣『東大寺山古墳と鉄刀』)

(図5)東大寺山古墳出土素環頭大刀
中平刀は10.全長110cm。



次は中・後期古墳出土例。(図6)

(図6−1)古墳時代中・後期の素環頭大刀(1)
1.熊本浦大間3号墓 2.宮崎灰塚地下式横穴9号墳 70cm
3.福岡琵琶湖古墳 4.山口朝田2号墳横穴墓 39.1cm
5.広島地蔵堂山1号墳 6.岡山押入西古墳 72.5cm
7.愛媛岩子山古墳 54.5cm 8.兵庫袋尻浅谷2号墳
(図6−2)古墳時代中・後期の素環頭大刀(2)
9.兵庫中山12号墳 76.5cm 10.兵庫宮山古墳
11.和歌山百合山2号墳 65cm 12.大阪富木塚古墳 108cm
13.奈良ホリノヲ4号墳 14.奈良新沢48号墳 68cm
15.奈良新沢323号墳 61.3cm 16.奈良岡峯古墳 90cm
17.滋賀新開2号墳 18.長野フネ古墳 91cm



(一)石上神宮の布都の御魂について

(三)石上神宮のフツノミタマの年代について―検討編
(四)石上神宮のフツノミタマの製作地について