再び尾鷲道―尾鷲から大台ヶ原へ
 
(May 3/4, 2005)

 大峰山系の雪山シーズンがそろそろ終わりかける頃、漠然とではあったが、尾鷲から大台ヶ原まで歩いてみてもいい、そんなことをちらっと思ったことがある。そのときはまだ尾鷲までどうやって行っていいかさえわからなかったのである。
 台高の地図を広げ、高見山から大台ヶ原まではさいわいにも数回に分けて繋いでいるから、高見山以北をまず繋ごう、うまく行けばGWには標記のコースを歩いて完了し日出ヶ岳で祝杯をあげたい。少しキザに言えば、海抜0ポイントから標高1700mまで登り、そこで祝杯をあげよう、と。
 高見山から三峰山はNP氏の同行を得、局ヶ岳から三峰山は白馬の騎士氏のサポートをいただき、いささかハードではあったがありがたいことに2回で繋ぐことができた。
 じつは、台高山系北部をいったいどこまでとするのかについてはよくわからない。私的には松阪の高須ノ峰、白猪山が北限かとも思うが、それはまたいずれと言うことにしておこう。
 尾鷲道については情報が少ない。尾鷲市にも問い合わせた。Iさんと言う方が、山には詳しくはなさそうだったが親切にも調べていただいて、「去年一人歩いた人がいる。一昨年も確か一人。林道は落石もあり、台風で傷んでいるし、やめといた方がいいです」と。
 せっかく思い立ったことでもあり、気分としては納まらないから自分で確かめておこうと、様子見を兼ねて大台から南下してみると、コブシ嶺へも、木組峠へも問題なく行けた。さらに橡山の稜線が台高稜線と繋がる又口辻までも難なく行けたのである。水場も細いながらあった。案ずるより何とやら、これなら行けるのではないか?
 尾鷲から又口辻までどのルートを取るかについてはいくつか候補はあった。
1.又口川に沿って国道425号線を走り、又口から柳ノ谷を詰めるのはおそらく沢ヤさんのルートであろうからこれは無理である。
2.橡山を水無峠へ巻いて橡山林道を歩く。これはいかにも距離が長い。
3.古和谷林道を終点まで詰め、又口辻へ登る。複数の地図を見ると未確認だがどうやらこの道は廃道になっているのかもしれない。1995年版の昭文社の「大台ヶ原 大杉谷・高見山」では古和谷林道終点から又口辻まで破線で繋がっているが、平成15年更新の国土地理院の25000分の1の「引本浦」ではその途中で道の印が切れているのである。
 残るのは以下のふたつ。
4.クチスボダムから橡山への尾根を登り、橡山から稜線伝いに又口辻へ。
5.クチスボダムから古和谷林道を509mの地点まで詰め、そこから対岸に渡り、橡山と又口辻の間の稜線に登って、そこから稜線伝いに又口辻へ。
 後者が時間的には無難なようにも思われた。

 インターネットで検索すると参考になる文章がふたつあった。
http://www4.kcn.ne.jp/~jac-ks/kojin/04/owase-michi.htm
> 雨のなかをゆっくり歩いて、大台山上駐車場から橡山林道まで8時間、あとは橡山林道を海山町まで歩いて4時間、車で1時間です。

 筆者は、又口辻から橡山林道へ下り、橡山林道を延々4時間歩いている。上記2.である。(郭)

>又口辻から古和谷に降りた古い尾鷲道は共に今は廃道です。

 おそらくこれが、上記3.に相当するものと思われる。(郭)

http://www.youyou.org/tozan/seigoro0402/seigoro.htm
>大台へ尾鷲から登るルートがふたつありますが、そのひとつがこの水無峠峠から行くコースです。もうひとつが古和谷ルートですが又口辻で合流しますので、行き帰りを変えればいいでしょう。

 前段が上記2.を指し、後半が上記5.を指すのではないか。(郭)

 上記4.あるいは5.で尾鷲から又口辻まで行けそうだ。であれば、あとは問題なく大台ヶ原まで楽勝で行ける。よし、GW中の好天を選んで決行しよう。

 GWに入ってまず前回の神仙平から大峰奥駈最深部を一泊二日でやった。週間予報を見るとどうやら、5月3日から4日にかけて好天のようだ。中一日ではあったが、ただでさえ雨の多い尾鷲、大台であるからこの日にやるしかない。
 まずDOPPOさんと日程を決め、ピッケル君も風邪明けだったが「ぜひ」と言うことで、この三人で行くことにしたのである。

5月3日(火)
07:30 近鉄難波で特急に乗り八木で降り、ピッケル君の乗る西大寺からの特急に乗り換える。DOPPOさんは八木からこの特急に乗る。GW中のこと、切符は前日手配したが混みあっていて並びの席は取れなかった。
09:00 松阪着。
09:17 JRの南紀1号で尾鷲まで。これも満席で結局デッキに座り込んで、ここで初めて三人で地図を見ながらルートを検討することになった。クチスボダムまではタクシーに乗り、上記5.のルートを取ることが決まった。
10:33 尾鷲着。
 コンビニで弁当、パンなどを買ってタクシーに乗りクチスボダムへ。

11:15 いよいよ長い林道歩きである。好天の予報だったが若干曇っているし、なにやら蒸し加減である。
12:00 昼食。

古和谷林道。曇り。やや蒸し加減だった。 古和谷の巨岩

 地図を見ながら古和谷林道509mの地点を探す。橋から700mくらい先のようである。もう近くまで来ているのでは?と思う頃、堰堤があり対岸に小屋があった。
 「ここですかね?」
 念のために林道を少し先まで歩いてみたが、それらしいところも見当たらなかったから、引き返し、この堰堤を渡ることにした。

こんな標識のある尾根を登った。
稜線に出た。さあ、行くぞ。

 細いがどうやら道はあった。
 途中で尾根へ上がるのと沢に沿うのと分岐した。尾根を上がればひょっとすると橡山へ登ってしまうのではないか?沢に沿ったほうがよさそうだ。そんなことで沢に沿い、涸れ沢を対岸に渡る。道はあるの? 道らしきものがないわけではないと言った程度である。何度も伐採木が前を塞ぐ。くぐるときザックが何度も引っかかった。

 そしてとうとう道がなくなった。あらあら。いったん下りて入りなおそうかとDOPPOさんが言う。DOPPOさんの高度計では600か650mまで登っているのだから、このままガリガリと登った方がよくはない? 稜線に出ればなんとかなるでしょう。
 周りを見渡して伐採跡の多い尾根に出ることにした。伐採跡があると言うことは人が入っているのだから道はあるかもしれない。
 浅い谷を渡ってその尾根に出ると明瞭ではないが踏跡程度のものはあった。杭もあった。
 どうやら取り付きを間違っていたようだが、これでなんとか上へ行ける。これがまず第一の核心部だった。

14:35 そしてついに稜線に出た。ふう。
 DOPPOさんによるとP970の手前あたりに出たようだ。
 稜線に出ればよく踏まれている道になり、三人ほっとしたのである。稜線を伝えば又口辻へ行ける。
 P970を過ぎていったん下ると左にやや斜め後ろから道らしきものがあった。そうか、これが地図にある道だったのか。それでも地図にあるように稜線とは交差していない。
 少し進むとp1036への登りであるが、右に巻道が付いていた。巻道を歩くとどうやら下っているようだ。なるほど、林道へ出るのかもしれない。
 と言うわけで引き返しp1036へ登り一本。

花も咲いていて・・・ 絶景なんだけど、目前の巨岩に阻まれた。

15:35 ピークから道は右へ角度を変え緩やかに下ると、展望のいい地点に出た。花も咲いている。行く手の稜線が見えさらには左右に台高南部の稜線が連なっている。
 「絶景やんか〜」
 なんて言うのも束の間。すぐ前の巨岩から先へ進めないのである。左右は切れて巻けそうにないのである。
 「こら行かれへんで」
 ってことは引き返すしかない。しょうがない。僕たちは再びp1036へ戻り、ぐっと下って先ほどの巻道を歩くと下に林道が見えた。見えたのはいいが、そこへ下るのにガラガラの涸れ沢のような道を下るのである。大台から下りて来て、この涸れ沢みたいなガラガラが古和谷への道だとは地元の林業関係者でなければまず気がつかないだろう。
 ここが第二の核心部だった。

橡山林道に下りる。(撮影はDOPPOさん) 橡山林道

 橡山林道へ出て一本取り、地図を開く。
 林道は、稜線と二度交差している。二度目の交差地点にふたたび稜線への取り付きがあるはずだ。
 林道は大きな石ころででこぼこもありランクルでも走れなさそう。林道が稜線と交差するところを過ぎて振り返ると左に先ほど僕たちが立ち往生した地点が見えた。存外、すぐ近くなのである。
 「あそこやったんか〜」
 ほどなく、二度目の交差地点である。

橡山から又口辻への稜線は二度林道と交差する。向こう側に道標があった。

16:30 「あった、あった、あったでぇ〜」
 先を行くD氏の声がする。稜線への取り付き点である。
 「ふう」
 これでようやくわかった。なるほどそうだったのか。
 ネット上でのことだが、尾鷲道そのものの記録がまず少ない。上に引いた二つくらいしか見つけられなかったが、その二つとも橡山林道を使っている。遠回りなのに何故なのか、疑問だったのである。

 稜線までの急登をこなすとあとは楽だった。稜線上に最初の分岐があった。「又口辻」とあったがこれは僕が先日来た地点ではない。左又口とあったけれど、これがたぶん古和谷林道終点へ繋がる道ではないだろうか。ただし、現在はどうなっているかわからない。

17:05 さらに稜線を伝うと「又口辻」の道標があった。
 「そうそう、ここ、ここ、ここですわ。ここまでこの前来たんですわ」
 ここから先はもうまったく大丈夫。お任せあれ。
 やっと明日の大台山頂のビールが見えてきたぞ。(^O^)

石楠花

 さて、テントをどこで張るか。水は持って来たからここでも張れるが、この先、木組峠への途中に神明水があるからそこで補給して、木組峠で幕営したほうがよい。まだ、日はあるのだし、木組峠へもせいぜい一時間もかからない。疲れてはいたが気分は軽い。僕は決して早くない。今回の三人でももっとも遅い。病み上がりのピッケル君さえ、細いわりにはひょっとすると僕以上の荷物だったかもしれないが早い早い。
 ま、ここから先は知っているし、とぼとぼとではあるが先を歩く。途中、石楠花が咲いていた。

17:50 いくつもの湾曲を経て神明水。
 細いから汲みにくく工夫が要る。D氏が樋代わりにと途中で木の皮を拾っていてそれを差すとうまく水が流れた。
 時間はかかるものの、それぞれが補給し、その間一本取りつつ、とは言うものの、この三人でまだタバコを吸ってるのは僕だけである。Dさんは一年半前にやめた。ピッケル君はひと月になると言う。僕は、尾鷲で買いそびれて数本しかなかったのを吸ってしまい、ポケロの中からシケモクを取り出すことであった。

18:15 木組峠
 ふう。やっと着きました。
 なかなか濃ゆい七時間の行程だった。

 テントをふたつ張って宴会である。
 ピッケル君は先日の奥駈も参加予定だったが風邪のためお休み。直前まで行くつもりで食料も豊富に準備していたらしく、さんまの煮付け6尾をひとり2尾がノルマだ、食え食えとうるさいのである。(^O^)
 そうこうするうちにそのさんまの煮汁がマットにこぼれてテントの中がさんま臭いのである。(^O^)
 お互いそこそこ飲んで晩御飯を食べぐっすり眠れた。僕は朝まで目を覚まさなかった。

5月4日(水)
04:40 起床。きのうの曇り空と違ってきょうは快晴だ。
05:45 出発。
 なんと言っても早朝の好天は気分がいい。
 左下の東ノ川から坂本貯水池にかけて雲海が見える。
 尾鷲道を軽快に歩いて一本木。一本木から稜線に乗った。もうコブシ峰(南峰)の下の平坦なところである。静かな森の中に朝日が差す。泊まらなければ味わえない風景だ。
 コブシ峰(南峰)が正面に見えるが稜線は左に巻いている。それを伝ってきょう唯一の急登である。ヒメシャラの林立の中を登る。

早朝の森1(奥はコブシ峰) 早朝の森2(コブシ峰の手前の平坦地)
早朝の森3 早朝の森4

07:05 コブシ峰(南峰)
 ふう。ここまで来たぞ。展望はいいし、最高だ。

奥は大峰山系。手前は竜口尾根。パノラマ合成している。
木組峠上部のp1297.4、および縦走路 坂本貯水池の雲海。右は荒谷山。

 シケモクだが一本取り、写真も撮り、お茶を飲み、ここでは携帯が通じるから、報告メールを書いた。07:34の発信「いまコブシ峰南峰。最高です。3人元気。郭」
 コブシ嶺(北峰)から僕は雷峠に下りて巻道を取った。D氏とP氏は稜線を。とは言うもののさしたる高低差はないのである。わざわざ道を付けなくても稜線を歩いたってかまわないはずなのだ。尾鷲から大台ヶ原へどのような目的で道を付けたんだろう?
 信仰か、吉野との交易か?
 このコブシ嶺(北峰)を過ぎると植生も大台らしくなってくる。
 再び二人と合流して堂倉山を巻き、一本。いよいよ最後の登り。尾鷲辻はもうすぐだ。
 
10:00 尾鷲辻。
 ついに、亭が見えた。人も多い。案外早かったぞ。
 尾鷲辻から右へ。まさに大台らしい景色が広がっている。正木ヶ嶺を過ぎると日出ヶ岳のピークの展望台が見えた。ビールは近い。

This is 大台。トウヒの立ち枯れと木道。 奥の左が橡山。稜線を右へ歩いた。
日出ヶ岳山頂。いよいよだ。祝杯は近いぞ。(^O^)

 そして、
10:40 ついに日出ヶ岳山頂に達した。やったぞ。(^O^)
 ザックからビールを出し、泡泡していたけれどもそれぞれのコップに注いで乾杯。

 日出ヶ岳山頂から正木ヶ嶺と駐車場への分岐で携帯が繋がった。11:06の発信で「1040日出ヶ岳山頂。祝杯。ついにやりました。駐車場へ下山中」と報告。

 途中の水場でタオルを濡らし、顔を拭き、腕を拭いた。帰りはバスだし、帰途温泉に入れないから一応身体を拭いておこう。
 駐車場に着くと12:15のバスに楽勝で間に合った。バスの整理券番号は6,7,8だったか。料金は上市で下りてからでいいとのことである。ザックの代金は混んでたら200円くらい徴収するけど、空いてれば無用とのこと。最初のバスだし満席にはならないらしい。

 シャツを脱いで上半身裸で身体を拭き着替え、靴はサンダルに履き替えた。D氏が冷えたビールを、P氏はこれまたなんだかさんまの押し寿司を、僕はタバコを。(^O^)
 D「バスが出るまでにテント干しとこか?」
 K「そんなぁ、もう10分くらいしかありまへんで」
 D「いけるいける」
 僕はビールをいただきながら長いタバコをくゆらせた。

 さて、乗車案内が始まった。
 バスに乗り込み空いている後部座席に座りかけるとバスの前の窓からのんぶーの顔が見えた。
 「あれぇ〜。のんぶーやんか〜」
 「降りよ、降りよ」
 「友達がいたから、ちょっと降りますわ」
 
 そんなこんなでのんぶーの車に荷物を移し上市まで送ってもらった。感謝感激。
 のんぶー、おおきに〜。
 かくして、仲間の力添えをいただいて台高北部、南部も繋げることができたのだ。
 同行のDOPPOさん、ピッケル君、お疲れさま。おおきに〜。




DOPPOさん:No.440 尾鷲道―尾鷲から大台ヶ原へ

ピッケル君:尾鷲道縦走―尾鷲〜日出ヶ岳