草薙剣覚書 (May 5, 2011)
(はじめに)
古代史に興味を持っていろいろと調べていくうちに自分なりの解を得ることもあるが、いくら調べても「結局ようわからん」ことの方がはるかに多い。
私にとっては草薙剣についてもその部類に入る。
本稿では、私なりの解を「推論」として書くことになるわけだが、肉迫できた部分はあると思うけれど、未解決の部分もある。それ故、全く異なる解もあるかもしれない。
このような事情から標題は、「草薙剣覚書」とさせていただいた。
一読されて忌憚のないご批判、ご教授を頂戴できればありがたい。
さて、いくつかの史料から草薙剣がたどった変遷を次の表にまとめてみた。
草薙剣は、ヤマタノヲロチの尾からの出現にはじまり、ヤマトタケルの東国遠征、熱田社鎮座、盗難事件、(壇ノ浦における安徳天皇の入水)と、まさに数奇なる運命のようである。
しかしながら、神代も、景行期も、言わば神話世界のことであり、そのまま史実として受け入れるわけにはいかない。けれども、草薙剣は実在したのである。神話には史実が象徴的に書かれている部分もあるだろう。実在する草薙剣がどのようにして神話世界に取り込まれていったのか、一方で、真相はどうだったのか、興味深いところだ。
そこで本稿では、表に示した問題点を念頭に、
第一章 天照大神と素戔嗚神話
第二章 草薙剣の形状と語意
第三章 草奈伎神社―標剣としての草薙剣
第四章 孝徳天皇期における伊勢と熱田、及び
第五章 沙門道行による草薙剣盗難事件
第六章 遠賀とヤマトタケル
などを検討し、
安徳天皇入水事件の史料を加えた。
草薙剣関連事象 | ||||
時代 | 場所 | 事件 | 問題点 | |
神代 | 天照、素戔嗚の誕生 | 天照、素戔嗚は姉弟か? | ||
1 | 出雲 | ・素戔嗚命のヤマタオロチ退治・ヤマタノオロチの尾から草薙剣の出現 | 草薙剣の形状、語意は? | |
2 | 高天原 | 素戔嗚命から天照大神へ献上 | 献上の意味は? | |
3 | 日向 | 瓊瓊杵尊の八咫鏡、草薙剣、勾玉を携行した天孫降臨 | ||
空白期 | 4 | 大和? | 神武天皇の東征 | はたして、草薙剣は携行されていたのだろうか? |
5 | 伊勢? | 天照大神の伊勢遷座 | ||
景行期 | 6 | 熱田 | ヤマトタケルの東国遠征 | 天日別、大幡主の標剣と草薙剣の類似性。山田原の草奈伎神社。 |
7 | 東国 | |||
8 | 熱田 | 宮簀姫 | ||
空白期 | 孝徳天皇 | 伊勢山田原に大神宮司設置 | 孝徳天皇の評価 | |
熱田社創建 | ||||
天智期 | 9 | 桑名 | 新羅僧道行による数次にわたる盗難事件 | |
10 | 熱田 | |||
11 | 難波 | (大阪・放出)阿遅速雄神社 | ||
12 | 熱田 | |||
13 | 博多 | 遠賀・高倉神社、古物神社に安置伝承。遠賀と熱田 | ||
14 | 宮中 | 宮中安置 | ||
天武期 | 15 | 熱田 | 天武天皇の病は草薙剣の祟りであるとして、熱田社に返却 | |
空白期 | ||||
平安期 | 16 | 壇ノ浦 | 安徳天皇と入水 | 宮中用のレプリカか? |